モバイルバッテリを安全に使用するために(前編)【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2022年03月03日 10時00分

米国・アップル社のiPhoneが日本で販売開始されてから約15年。国内メーカ機種も含め、今やスマートフォンはすっかり私たちの身近なものとなりました。モバイル社会研究所レポートによれば、2010年当時、携帯電話・スマートフォン所有者のうちのスマートフォン比率は4%程度でした。ところが、それが2021年には92.8%となったそうです。約10年で所有者における、携帯電話とスマートフォンの所有比率が取って代わったと言えます。そんなスマートフォンですが、技術の進化とともにそのバッテリの性能や容量は向上し、販売開始当初と比較すると、その持続時間はかなり長くなっていると思います。しかしながら、便利なアプリケーションの登場により、SNSなどのコミュニケーションツールとしての使用、音楽などを聴くためのオーディオツールとしての使用、また、カメラとしての使用など、電話としてではない用途での使用頻度が高まり、搭載されているバッテリが高容量化したとはいえ、それだけでは外出時間中の使用を賄えないといった理由などから、モバイルバッテリを常備されている方は多いのではないかと思います。今回のRISCAD CloseUPは、スマートフォンの台頭とともに身近になった「モバイルバッテリを安全に使用するために」と題し、どのような事故が起きているか、また、事故を起こさない、事故に遭わないために、私たちが気をつけたいことを前編、後編の2回に分けて考えてみたいと思います。

モバイルバッテリが関連する事故事例

冒頭のように、スマートフォンの普及とともに、モバイルバッテリを常備している方は多いのではないでしょうか。多くのモバイルバッテリが市中に存在するようになり、その分、モバイルバッテリが原因とみられる事故も増加しています。

ここでは、過去に起きたモバイルバッテリが原因とみられる事故事例について「RISCAD(リレーショナル化学災害データベース)」の事故事例からみてみましょう。

  *「RISCAD」は現在メンテナンス中です。
   再開の際は当サイト「さんぽのひろば」にてお知らせいたします。


2018/9 兵庫・走行中の新幹線車内でモバイルバッテリから発煙
走行中の新幹線車内で携帯電話用のモバイルバッテリから発煙が起きた。乗客1名が足にやけどを負って病院に搬送された。非常ボタンが押され、同新幹線は緊急停車した。同新幹線はその後、最寄停車駅まで走行し、運転が打切られた。警察と消防の調べでは、乗客の荷物内にあった携帯電話のモバイルバッテリから出火した可能性がある。

2019/1 福岡・スマートフォン用モバイルバッテリが落下して発火
ショッポングモール内の飲食店で客のバッグ内の縦約12cm、横約6cmのスマートフォン用モバイルバッテリがバッグごと落下して発火した。店員が水をかけて消火した。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、客がソファの上に置いたバッグが床に落下し、その際の衝撃でモバイルバッテリが発火した可能性がある。

2019/9 福岡・列車内で乗客の荷物内の電子機器から発火
走行中の列車内で乗客のリュックサック内の電子機器から火災が起きた。停車駅で同乗客を含む乗客が一斉に降車し、ホームで車掌が消火器で消火した。ホームにいた2名が消火器の消火剤を吸入して体調不良となった。列車の上下線が最大20分遅延した。警察と消防の調べでは、座席で膝に載せていたリュックサック内のモバイルバッテリやワイヤレスイヤホンなどの電子機器から出火した可能性がある。

2021/01 三重・走行中の軽乗用車内でスマートフォンを充電中に発火
走行中の軽乗用車内でスマートフォンを充電中に火災が起きた。同車両の運転手が警察などに通報した。消防が約30分後に消火したが、同車両が全焼した。同車輌の運転手1名が避難の際に手にやけどで軽傷を負った。警察と消防の調べでは、同車内の助手席でモバイルバッテリを使用してスマートフォンを充電中に出火した可能性がある。

2021/10 神奈川・合同庁舎の休憩室でモバイルバッテリ充電中に火災
地上23階地下3階建ての合同庁舎の2階の休憩室でモバイルバッテリ充電中に火災が起きた。消防車など30台以上が約2時間半後に鎮火したが,同休憩室約26平方mが焼けた。同室は無人で,けが人はなかった。警察と消防の調べでは,同室は関東信越厚生局麻薬取締部横浜分室の休憩室で,職員が同日朝から大容量のモバイルバッテリ2台をコンセントに繋いで同室内の畳の上で充電中にバッテリから出火した可能性がある。

以上、5件の事故事例ではありますが、モバイルバッテリが原因とみられる事故は、ぼやや火災などが主であると推察されます。また、発生時の状況としては、運搬中、使用中、そして落下など衝撃を与えたなどがあるようです。

 

資料からみるモバイルバッテリが関連する事故

次に、消費者庁の資料をもとにモバイルバッテリが関連する事故についてみてみたいと思います。

消費者庁「モバイルバッテリーの事故に注意しましょう!-帰省や旅行の時期、公共交通機関の中での事故は特に危険です-」で、平成25年から令和元年6月までのモバイルバッテリの事故件数の推移を公表しています。この資料からは、モバイルバッテリが関連する事故の件数が増加傾向にあることがわかります。
 

モバイルバッテリの事故件数の推移

(消費者庁「モバイルバッテリーの事故に注意しましょう!-帰省や旅行の時期、公共交通機関の中での事故は特に危険です-」より引用、図2. モバイルバッテリーの事故件数の推移)
また、同じく消費者庁が、同資料内で、モバイルバッテリの事故内容を公表しています。
 

モバイルバッテリの事故内容

(消費者庁「モバイルバッテリーの事故に注意しましょう!-帰省や旅行の時期、公共交通機関の中での事故は特に危険です-」より引用、図3. モバイルバッテリーの事故内容)
前項のモバイルバッテリが関連する事故事例で確認できたように、発煙、発火、過熱が全体の約半数を占めており、また火災も多く発生していることがわかります。

 

モバイルバッテリから出火する理由

モバイルバッテリには一般にリチウムイオン二次電池が内蔵されています。

リチウムイオン二次電池については、この「RISCAD CloseUP」でも過去に何度か取り上げてきました。その際にも話題にしましたが、リチウムイオン二次電池は、強い衝撃や圧力が加わったり、高温の環境下にさらされたりすると、変形、破損するなどして、発煙、発火に至る場合があります。

それゆえ、リチウムイオン二次電池を自治体の廃棄ルールに従わずに廃棄したことによる廃棄物処理施設などでの廃棄時の事故が多発しているというのは、過去の「RISCAD CloseUP」で触れた通りです。

過去の記事は別途お読みいただくとして、今回の「モバイルバッテリを安全に使用するために(前編)」はこのへんで締めくくりたいと思います。

次回、「モバイルバッテリを安全に使用するために(後編)」では、今回ご紹介したような、モバイルバッテリが関連する事故を起こさない、事故に遭わないために、私たちが気をつけたいことを考えていきます。

 

【参考情報】

【参考記事】

 

さんぽニュース編集員 伊藤貴子