リチウムイオン電池関連火災増加のニュースから(後編)【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2024年2月1日 10時00分

前回の「RISCAD CloseUP」では主に東京消防庁の資料や、「さんぽのひろば」が過去に収集した事故事例などをもとに、リチウムイオン電池が関連する火災のうち、主にリチウムイオン電池内蔵製品の使用中、携帯中の事故が増加傾向にあるということをご紹介しました。後編となる今回は、リチウムイオン電池を私たちが使用した後、ごみとなって回収されたリチウムイオン電池が関連する火災に注目してお送りいたします。それでは「リチウムイオン電池関連火災増加のニュースから(後編)」スタートです。

リチウムイオン電池廃棄後に起きる事故とは

前回の最後で触れたように、東京消防庁による「令和5年版火災の実態」の「リチウムイオン電池関連火災状況(最近10年間)」の表には、最近10年間のリチウムイオン電池関連火災の発生状況が掲載されていますが、キャプションに注目していただくとわかるように、ここには私たちが廃棄した後にごみとして回収されたリチウムイオン電池が関連する火災はカウントされていません。*

しかし、日々起きる事故の情報をチェックしていると、廃棄されたリチウムイオン電池が、廃棄物収集車内や廃棄物処理関連施内で火災の原因となる事例が多く起きているのに気付かされます。


東京消防庁「令和5年版火災の実態」、第3章 出火原因別火災状況、(5) その他の特筆すべき火災状況、イ リチウムイオン電池関連火災の発生状況、表3-6-5リチウムイオン電池関連火災状況(最近10年間)(p.126) キャプション中、「リチウムイオン電池関連火災には、ごみ回収中のごみ収集車から出火した火災及びごみ処理関連施設 (業態が一般廃棄物処理業及び産業廃棄物処理業)から出火した火災を除く。」の箇所より

廃棄後のリチウムイオン電池が関連した火災などの事故事例

私たち「さんぽのひろば」が過去に収集した事故事例のうち、廃棄後のリチウムイオン電池が関連した火災の事例を見てみたいと思います。

2022/10 京都・埋立ごみ回収中のごみ収集車で火災
埋立ごみ回収中のごみ収集車で火災が起きた。けが人はなかった。同車両が激しく損傷したため、廃車となった。警察と消防の調べでは、同車両の荷室内で破砕されたスプレー缶内の可燃性ガスが漏洩して滞留し、別の袋に入っていたリチウムイオン電池から出た火花で着火した可能性がある。同車両は陶磁器やガラスなどの埋立ごみの回収を行なっており、正しく分別されていないごみが火災の原因となった可能性がある。

2023/1 熊本・廃棄物処理施設の可燃廃棄物貯留施設で火災
廃棄物処理施設の可燃廃棄物貯留施設で火災が起きた。消防が約18時間後に鎮火したが、可燃廃棄物約2,000立方mが焼け、設備の一部が損傷した。けが人はなかった。同施設の廃棄物の受入が一時停止された。警察と消防の調べでは、可燃廃棄物内に誤混入していたスプレー缶や乾電池、モバイルバッテリなどから出火した可能性がある。同地域では、スプレー缶や乾電池、モバイルバッテリなどの廃棄物は、可燃廃棄物でなく特定品目として出す決まりとなっていた。

2023/2 滋賀・廃棄物処理施設の不燃廃棄物ピットで火災
廃棄物処理施設の不燃廃棄物ピットで火災が起きた。同施設の散水設備では消火できず、消防が消火した。けが人はなかった。影響で数日間不燃廃棄物ピットへの廃棄物の受け入れができなくなった。警察と消防の調べでは、同ピット内から焼けたスプレー缶や携帯電話が発見されたことから、不燃廃棄物に混入したスプレー缶内から漏洩した可燃性ガスに着火したことや、携帯電話のリチウムイオン電池に衝撃や圧力が加わって発火したことが原因の可能性がある。また、正しく分別されていない廃棄物が火災の原因となった可能性がある。

2023/3 宮城・廃棄物処理施設の廃棄物ピット内で火災
廃棄物処理施設の廃棄物ピット内で火災が起きた。従業員が消防に通報した。ポンプ車など16台が約50分後に消火した。けが人はなかった。警察と消防の調べでは,同ピットには家庭から出た廃棄物が保管してあり,廃棄物から出火した可能性がある。同処理施設では、過去に、分別されずに搬入された廃棄物内にあったリチウムイオン電池やスプレー缶が原因となった火災が起きていた。

2023/4 埼玉・廃棄物処理施設で選別機の火災
廃棄物処理施設で選別機の火災が起きた。消防が約5時間後に鎮火したが、同選別機などが焼けた。警察と消防の調べでは、焼け跡からリチウムイオン電池が見つかったことから、破砕工程で破砕されるなどしたされたリチウムイオン電池が、選別機付近で出火した可能性がある。同自治体では、リチウムイオン電池は家庭ごみとして廃棄してはいけないきまりになっていた。

2023/6 愛知・廃棄物処理施設の廃棄物ピットで火災
廃棄物処理施設の廃棄物ピットで火災が起きた。同施設の職員が消防に通報した。消防が約2時間後に消火した、けが人はなかった。同施設への廃棄物の搬入が約1時間停止された。警察と消防の調べでは、不燃ごみを破砕する過程でリチウムイオン電池に衝撃や圧力が加わって発火した可能性がある。同自治体では、電池類は他の廃棄物と分けて出すきまりになっていた。

私たちにできることは?

ここで紹介したのはわたしたち「さんぽのひろば」が情報収集できた事例のうちの6件ですが、 廃棄物収集車、廃棄物処理施設等でのリチウムイオン電池が原因と考えられる火災では、本来リチウムイオン電池が廃棄されるべきでない区分のごみにそれらが混入していたことで起きたと考えられる事例が多く見られます。

ごみが正しく出されなかったことが原因となって、廃棄物収集車や廃棄物処理施設が損傷し、一時的に使用できなくなる、または更新せざるをえなくなるなど、私たちの生活への支障が出る可能性があります。これを機に、もう一度自治体の廃棄ルールを確認し、正しい分別をすることやごみの出し間違いを防ぐことを意識してみませんか。

環境省のサイトに掲載されている「令和4年度 リチウム蓄電池等処理困難物対策集(概要版)」では、ごみ処理時のリチウム電池等などに起因する可能性がある火災についてまとめられていますので、参照してみてください。

リチウムイオン電池のリサイクル

また、環境省のYouTubeチャンネルでは、リチウムイオン電池のリサイクルを含めた適正な排出を啓発しています。ぜひ視聴してみてください。


「セーフリサイクル!リチウムイオン電池!(正しい捨て方の動画)」


家電量販店などにはリチウムイオン電池など小型二次電池の回収ボックスが設置されています。(回収対象の小型二次電池には、以下の文字またはマークが表示されています。)私たちが使用しなくなったリチウムイオン電池を回収ボックスに入れることで、廃棄物処理場などでの火災発生を防ぐことができ、また電池がリサイクルできるのであれば、一石二鳥といえますね。

回収対象の二次電池の表示

経済産業省 「小型二次電池のリサイクル(資源有効利用促進法)」より引用)

【参考情報】

東京消防庁
  「令和5年版火災の実態」
   イ リチウムイオン電池関連火災の発生状況(P.126-129)

環境省
  「令和4年度 リチウム蓄電池等処理困難物対策集(概要版)」

環境省YouTubeチャンネル
  「セーフリサイクル!リチウムイオン電池!(正しい捨て方の動画)」

経済産業省
  「小型二次電池のリサイクル(資源有効利用促進法)」

【参考記事】

リチウムイオン電池関連火災増加のニュースから(前編)【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

増える廃棄物処理施設での火災【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP
リチウムイオン二次電池が関連する事故を防ぐために−廃棄編−【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

さんぽニュース編集員 伊藤貴子