リレーショナル化学災害データベース(RISCAD)【月刊災害情報アーカイブス】by 和田有司

※このコラムは特定非営利活動法人災害情報センターの会誌「月刊災害情報」に掲載されたコラムを再掲したものです(コラム内の情報は掲載当時のものです)。

月刊災害情報アーカイブス
リレーショナル化学災害データベース(RISCAD)
和田有司

投稿日:2018年12月13日 10時00分

「災害情報データベース」を運営している災害情報センターのコラムに他のデータベースの話で恐縮であるが、宣伝と問題提起を兼ねて書かせていただく。

私の所属する(独)産業技術総合研究所(産総研)では(*編注1)、産総研研究情報公開データベースの一つとして、「リレーショナル化学災害データベース(RISCAD)」を公開している。RISCADは、「Relational Information System for Chemical Accidents Databaseの頭文字を取ったもので、「りすきゃど」と読む。文字通り、化学災害に特化したデータベースであることは間違いないが、どこがリレーショナルか、というと、表面上は事故事例と関連化学物質の危険性データがリンクしていることや、事故進展フロー図へのリンクがある、といった程度なので、命名に若干誇張があることを認めざるを得ない。開発当初は、他の事故事例データベースとのリレーショナル化を考えていたが、残念ながら実現していない。

RISCADの原型である「災害情報データベース」は1996年にWeb上で公開された。その後、1999年から3年間、現在の(独)科学技術振興機構(*編注2)の支援を受け、RISCADを開発し、2002年10月から現在の形で公開しており、今年10周年を迎える(*編注3)。

RISCADは、化学企業の安全専門家に代わるエキスパートシステムを構築するというプロジェクトの中で誕生した。化学企業の安全専門家というのは、化学物質や化学プロセスに関する専門的知識を持っていることに加え、事故情報やその安全対策に関する情報を頭の中に持っておられる。そこで、エキスパートシステムの第一歩として、事故情報のデータベースを構築することになった。RISCAD開発当時にも事故事例データベースはいくつか存在したが、数行の概要文しかないものがほとんどで、詳細情報が入手できるのは災害情報センター「災害情報データベース」以外にはなかった。そこで、RISCADでは事故を容易に理解できる「事故進展フロー図」を作成して、事故事例とリンクさせることにした。また、利用者がより多くの「類似事例」にたどり着けるように、工程や装置などの分類を階層化したキーワードを作成した。この階層化キーワードの作成には、多くの専門家が議論に参加し、約1年を要した。

さんぽコラム「RISCAD Story」より
第3回「RISCAD開発経緯」
第4回「RISCAD概要」
第5回「RISCADの運用」
第7回「事故進展フロー図の構成」

RISCADの紹介はこのあたりで止めて、データベース運用上の問題を考えてみる。

運用資金について。RISCADの公開後,約3年間は(独)科学技術振興機構の支援があったが、その後は産総研だけで運用している。どこのデータベースでも問題となっているが、開発予算が取れたとしても、その後、継続運用する予算の保証は無いのである。RISCADは産総研が一括管理するサーバ上で運用しており、ハード面の管理費は研究者が負担しなくてもよいが、一方で、情報収集、更新といった継続運用のための人件費は、データベースの予算だけでは赤字である。毎年、関連研究を実施しながら研究資金をいただいて、成果をRISCADに統合する、という運用をしている。

後継者の育成も問題である。特に事故事例データベースの運用だけでは、研究成果にはなり難いので、研究業績評価の厳しい若手の研究者が携わることが困難になっている。

他のデータベースとの連携も、常に利用者の皆様から要望を受けており、データベースの運用担当者レベルでは相談する機会もあるが、個人情報保護の縛りなどで、ますます連携は困難になりつつある。一方で、ECのMARS(Major Accidents Reporting System)失敗知識データベースなど、公開されているデータベースの取り込みの構想も進めているので、今後にご期待いただきたい。

*編注1:2018年現在は、独立行政法人ではなく「国立研究開発法人産業技術総合研究所」。
*編注2:2018年現在は、独立行政法人ではなく「国立研究開発法人科学技術振興機構」。
*編注3:2012年時点では10周年だったが、2018年には16周年を迎えた。

和田 有司 / Yuji WADA、Ph.D

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境安全本部 安全管理部 次長 (兼)安全科学研究部門付

1件でも事故を減らし、1人でも被害者を減らしたい、という一心で事故DBに携わって25年になります。趣味は事故情報の収集です。