投稿日:2022年09月01日 10時00分
先月のこのコーナーは夏休み特別企画とさせていただきましたが、今月は7月のその1の続きとなる「私たちは消毒用エタノールの扱いに慣れたのか〜その2〜」をお送りいたします。今や至るところに設置されている手指消毒用のエタノールですが、新型コロナウイルス流行以前は、私たちの日常生活でさほど目にするものではありませんでした。過去にも消毒用エタノールに関連する誤飲事故などは起きていて、このコーナーでも数回取り上げたことがありますが、今回改めて「私たちは消毒用エタノールの扱いに慣れたのか」と題し、2回に分けて消毒用エタノールについて触れるのは、今年3月と5月に消毒用エタノールが関連する事故が起きたためです。その1では、5月に起きた高校総合体育大会の競歩競技での給水時の消毒用エタノール誤提供による誤飲事故に触れました。その2となる今回は、3月に起きた保育所での事故に触れます。保育所、それは言うまでもなく物心つくかつかないかの小さな子供が集う場所です。その保育所で消毒用エタノールに関連するどのような事故が起きたのでしょうか。今回はその事故について考えると共に、事故を防ぐために私たち大人ができる対策などを考えてみたいと思います。
3年ぶりの行動制限がない夏休み
今年は、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に伴う行動制限がない3年ぶりの夏となりました。とはいえ、新型コロナウイルスの罹患者数は高止まりであった第7波の最中、みなさんどのような夏休みを過ごされたでしょうか。
なかなか収束の気配を見せない新型コロナウイルスですが、行動制限のない夏休みが3年ぶりということは、国内で新型コロナウイルスの流行が始まってからすでに2年以上、あと半年もすれば3年の月日が経過することになります。
3年というのは子供たちが大きな成長を遂げるに十分過ぎる年月です。今の中学校3年生、高校3年生は、新型コロナウイルスによる初めての緊急事態宣言が出された2022年4月に中学校、高校へ入学しました。その子供たちが、来年春には卒業を迎えるのです。
新型コロナウイルスの流行が始まってからの年月を、小中高生の子供たちの進級と重ね合わせると、普段子供と接する機会がない私でも時間の経過にしみじみとさせられます。そして、その成長たるや未就学児童に至ってはより目覚ましいものがあると安易に想像できます。新型コロナウイルスの流行が始まった頃に生まれた赤ちゃんは、もう言葉を覚え、歩いていることでしょう。
保育所で消毒用エタノールを舐めた児童が急性アルコール中毒となった事故
さて、本題である、今年3月末に起きた事故の話に入ります。事故の概要は以下の通りです。
2022/3 島根・保育所で児童が消毒用エタノールを舐めて急性アルコール中毒
保育所で児童が手指消毒用エタノールを舐め、急性アルコール中毒が起きた。児童1名が意識不明となり救急搬送されたが、検査の結果異常は見つからず、約5時間半後に意識が戻った。同児童の話から、消毒用エタノールを舐めたことが判明し、血液検査の結果、血中アルコール濃度が120mg/dLで、急性アルコール中毒と診断された。同児童は回復し、後遺症なく退院した。市の調べでは、同児童は午睡後に保育所内にあった消毒用エタノールを手につけ、複数回舐めた可能性がある。また、同児童は事故発生以前にも、消毒用エタノールを複数回舐めた可能性がある。事故の翌日、市が市内の教育施設や保育施設などに、消毒用エタノール等の使用に関する注意喚起を行った。
一時意識不明となった児童ですが、後遺症なく回復したということで、幸いでした。
この事故のニュースを聞いて思ったこと、それは、新型コロナウイルスの流行により子供たちが日常を過ごす保育所という場にも、ひとつ扱い方を間違えると大きな事故につながる可能性がある手指消毒用エタノールを設置せざるを得ない状況となっているということです。
とはいえ何も消毒用エタノールに限らず、扱い方を間違えると大きな事故につながるものというのは日常のあらゆる場所にあります。そこでもうひとつ考えたのは、少し大袈裟な言い方かもしれませんが、大人の人生と子供の人生における消毒用エタノールの存在期間の差です。
大人にとっての消毒用エタノール、子供にとっての消毒用エタノール
新型コロナウイルスの流行開始から3年近い年月が経過したということ、それは、物心ついた時から消毒用エタノールが身の回りにあったという子供が存在するということを意味します。件の児童は、事故当時5歳であったとのことです。ということは、児童がおおよそ3歳頃から新型コロナウイルスの流行が始まった、つまり消毒用エタノールが身の回りにあったということになります。一方、大人である私たちにとっての消毒用エタノールは身近なものになってからまだ3年も経過していないのです。人生において身の回りに消毒用エタノールが存在している期間を考えると、例えば現在48歳の私にとっては3/48年、5歳の子供にとっては3/5年ということになります。
私たち大人は、自身がこれまで生きてきた過程で身についた知識や経験したことから子供に何かを教えることが多くあります。その私たちの知識は、自分が子供の頃に当時の大人から教えられたことがもとになっていることも少なくありません。また、数多くの経験の中には、子供の頃、大人から教えられたことを守らずに痛い目にあい、もうするまいと思ったなどという失敗の経験もあるかと思います。
大人である私たちにとっての消毒用エタノールは、「身近なものになってからまだ3年も経過していない」ので、子供の頃に大人から消毒用エタノールについて教えられた経験はありませんし、同じく子供の頃に消毒用エタノールで痛い目にあった経験もありません。そのため、子供に消毒用エタノールについて教える際の材料は大人としての知識と経験のみで、そこに自分が子供の頃にした消毒用エタノールに関連する失敗の経験を盛り込むことはできません。
大人としての知識と経験からの消毒用エタノールについての教えと配慮
では、その大人としての知識と経験から、消毒用エタノールについて子供に教えてあげられることにはどのようなことがあるでしょうか。
- 手の消毒に使うものである
- 口に入れてはいけない
- 目に入れてはいけない
また、消毒用エタノールの設置に関して私たち大人ができる、子供の身に危険が及ばないようにするための配慮にはどのようなことがあるでしょうか。
- 子供の手の届くところに消毒用エタノールを置かない
- 子供に消毒させるときには大人が目を離さない
これ以外にも教えるべきことや配慮するべきことはあるかと思いますが、特に注意したいのは、子供は大人が予測しないことをすることがあるということです。これを念頭に置いて注意、監督してあげることができれば、大人が失敗に基づく教えができないことの補足になるかもしれません。
3月に起きた事故に当てはめて考えると、消毒用エタノールは大人が飲みやすいように加工されたアルコール飲料のようなものとは全く違うので、甘い香りや味がするわけではありません。むしろ刺激的な匂いや味がするはずです。それでも、児童は事故当日、消毒用エタノールを複数回舐め、かつ、事故発生以前にも複数回舐めた可能性があるとのことです。その行為について大人はどうしてそんなものを何度も舐めたのかと考えますが、その児童の気持ちや感覚を理解はすることは難しいものです。
まさか口に入れないだろう、ではなく、子供は何かを口に入れたがる傾向があるから、消毒用エタノールも口に入れるかもしれないと考えた方が、安全対策を取りやすいかと思います。
過去に起きた子供の消毒用エタノール誤飲事故から考える
子供と消毒用エタノールの事故の別の事例を見てみましょう。過去に学童保育で、前回の
その1のように、児童にペットボトル入りの消毒用エタノールを誤提供したことよる誤飲事故が起きたことがありました。
2021/2 東京・学童保育室で児童が消毒用高濃度エタノールを誤飲
学童保育室で児童による消毒用高濃度エタノールの誤飲が起きた。冷蔵庫に保管してあった2Lの飲料用ペットボトルに入ったエタノールを職員が水と誤認してコップに注ぎ、児童に飲ませた。児童が辛さを訴えたため、職員が液体を確認したところ、消毒用高濃度エタノールであることが判明した。児童は救急車で病院に搬送されたが、体調に異常はなかった。区の調べでは、同エタノールは2Lの飲料用ペットボトルに入れられ、側面に「エタノール80%」などと記載された白い養生テープが貼られ、冷蔵庫に入れられていた。当初同ペットボトルは流し台に置かれていたが、水と誤認した職員が冷蔵庫に保管し、別の職員が養生テープの表示を見落として水と誤認して児童に与えた可能性がある。
こちらについては、大人の誤認による取り違えが原因となった事故ですが、大人が取り違えるのですから、文字などからの情報が得にくい子供が消毒用エタノールと飲料を取り違えて手に取ることがあってもおかしくありません。例え表示がしてあっても、誤飲、誤食などの事故につながる可能性があるので、
飲食料品が入っていた容器に、口に入れると害があるものを移し替える行為をしない、また、飲食料品と消毒用エタノールを近くに置かないといったことは、大人が子供たちにしてあげられる安全対策のひとつであるといえます。
まとめ
子供の好奇心を抑えるのはかなり難しいことです。大人の立場からすれば、子供には事故にあったりけがをしたりすることなく育ってほしいものですが、子供の大先輩である私たち大人は、子供の頃にその好奇心から色々なことを行い、失敗したりちょっとした危険な目にあったり、良いとばかりはいえない経験を積み重ねて成長し今に至ります。ほどほどの経験を積み重ねるということはなかなか難しいのですが、私たちがしてきたように、いつの時代の子供にとっても経験することは大事だと思うのです。
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さんぽニュース編集員 伊藤貴子