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  • フタル酸エステル類への経皮曝露量の把握
  • フタル酸エステル類への経皮曝露量の把握

    篠原直秀(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】

    プラスチック製品の可塑剤として広く使用されているフタル酸エステル類は、その蒸気圧の低さと吸着性の高さから、粒子や壁面へ吸着しやすいことが知られています。フタル酸エステル類の塩ビ樹脂からの放散やハウスダストへの移行について、2016年度から科学研究費補助金の基盤研究(B)により研究を実施しており、気中放散量と比べてダストへの移行が数桁大きいことなどを明らかにしてきました。しかし、ヒトの皮膚への吸着を介した経皮曝露については、可能性は示唆されているものの、これまでにどの程度の経皮曝露量があるのかは明らかになっていません。

     

    【2019年度の取組みと成果】

    本研究では、日常生活におけるフタル酸エステル類への経皮曝露量の測定方法を検討し、3人の被験者について測定しました。方法としては、一定の大きさのセルロースろ紙を足裏と上腕部に鬘用両面テープにより貼付して、1日間もしくは7日間日常生活を送ってもらい(入浴時は外す)、その後、セルロースろ紙からジクロロメタンにより抽出した液をGC-MSによる分析して、経皮曝露量を求めました。7日間サンプリングでは、経皮曝露量は、個人間で大きく異なっていましたが、両腕の左右差は小さい結果となりました。DEHPへの曝露量は0.12~0.49 μg/cm2(上腕)・0.70~5.5 μg/cm2(足裏)と、他の物質より1桁以上高い曝露を示していました。DPP、DhexylP、DpentylP、BBP、DCHPについては、全て定量限界以下でした。また、足裏の曝露量は上腕における曝露量より高い結果となりました。
    また、放散量やダストへの移行試験の結果について、PlosONE(0222557, 2019)やScience of the Total Environment(711: 134573, 2020)において公開しました(後者の公開は2020年度)。

     

    【成果の意義・今後の展開】

    これまで評価されることの少なかった経皮曝露によるフタル酸エステル類への曝露を把握することで、建材への対策の必要性の有無や対策の方向性などが明らかになると考えられます。今後、セルロースろ紙への吸着特性の試験から皮膚への吸着との違いを明らかにし、経皮曝露量への換算方法を確立したいと考えています。また、被験者数を増やすとともに、併せて自宅における曝露濃度の測定を行い、吸入・経口・経皮の各経路からの曝露量について評価する予定です。

    ※ 本研究は、科研費(基盤研究(B)(一般))「室内環境中のフタル酸エステル・2-エチル-1-ヘキサノールの動態解析/リスク評価」により実施しています。

     

    図 7日間の経皮曝露量測定結果

    DEHPの足裏の経皮曝露量が他の物質や他の部位より大きい。

    2020年08月07日