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  • 食事からの無機ヒ素摂取を評価する曝露バイオマーカーの確立
  • 食事からの無機ヒ素摂取を評価する曝露バイオマーカーの確立

    小栗朋子(環境暴露モデリンググループ)

    【背景・経緯】
    ヒ素は、単体や様々な無機化合物や有機化合物として土壌や水、食品等に含まれており、自然環境中に天然に広く存在する元素です。また無機ヒ素は毒性が高く、微量であっても長期間摂取し続けることで健康影響をもたらすことが知られています。
    日本人は海藻や米から比較的多くの無機ヒ素を摂取している傾向があることから、日常的な食事からの無機ヒ素摂取量と健康影響との関連について調査が求められています。さらに健康影響調査を行うにあたっては、長期間の無機ヒ素摂取量を推定するための曝露のバイオマーカーを確立することが望ましいと考えられており、われわれは2018年度から尿や足爪等の生体試料を用いた無機ヒ素の曝露バイオマーカーを確立するための調査研究を実施してきました。

    【成果】
    2020年度は39名の成人男女を対象として、尿および足爪中無機ヒ素代謝物濃度と7日間に食べた「米飯」「ひじき」経由の無機ヒ素摂取量の関係について調査を行いました。
    その結果、一日無機ヒ素摂取量(7日間平均値)は0.017-1.6 μg/体重/日、尿中無機ヒ素代謝物濃度は1.48-19.2 ng/mL(比重換算値)と、これまでに日本で行われた調査の報告値と同程度であり、日本の平均的な無機ヒ素摂取量と排泄を反映していると考えられました。また尿中濃度と一日無機ヒ素摂取量は統計的に有意な関係が認められたことから、尿中濃度から無機ヒ素摂取量を推定することが可能であることが示唆されました。
    一方で、本研究で新たに検討した足爪については、足爪中濃度と一日無機ヒ素摂取量との間に統計的に有意な関係が認められず、今回の結果からは足爪中ヒ素を無機ヒ素摂取量推定に用いることは難しいことが示されました。


    図 曝露バイオマーカー研究に用いる生体試料

    【成果の意義・今後の展開】
    日本において、日常の食事からの無機ヒ素摂取と健康影響についてはまだほとんど調査がされていません。今後、個人や社会における無機ヒ素のリスク管理を進めるためには、日常的な食事からの無機ヒ素摂取量レベルにおいて影響が生じるかを調べる疫学調査や毒性メカニズムに関するデータの蓄積と、総合的なリスク評価が必要となります。本研究で得られた曝露評価手法を用いて、今後、無機ヒ素摂取による健康影響調査を進めたいと考えております。

    ※ 本研究の一部は平成30年度(公財)浦上食品・食文化振興財団研究助成により実施しました。

    2021年09月16日