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  • 冷媒として地球温暖化効果の小さいプロパンを用いた家庭用ルームエアコンの燃焼事故危害評価
  • 冷媒として地球温暖化効果の小さいプロパンを用いた家庭用ルームエアコンの燃焼事故危害評価

    椎名 拡海(爆発利用・産業保安研究グループ)

    【背景・経緯】

    現在家庭用のエアコンに使われている冷媒ガスは、オゾン層を破壊しない代替フロンですが、大気に放出された場合の地球温暖化効果が大きいことが知られています。この代替フロン類の地球温暖化効果は冷媒分子の大気寿命が短いほど小さくなるため、大気中での反応性がより高く大気寿命が短い分子を冷媒に用いることが検討されています。地球温暖化効果が小さい冷媒として検討されている分子の一つが、燃料としても使われる可燃性ガスのプロパンです。プロパンと似たガスであるブタンガスはすでに冷蔵庫の冷媒として実用化されていますが、エアコンの場合には使用量も多くなるため、室内で漏えい着火事故が起きた場合の危害度を実規模実験で評価しました。

     

    【成果】

    実験は、約9畳の鋼製模擬室を鉱山堆積場跡地に設置して、壁面に取り付けたエアコン室内機からプロパンを放出し、電気スパークにより点火して行いました。放出量は、部屋の広さ等から計算した最大許容充填量を用いました。その際、現在国際的に採用されている計算式と、室内気の撹拌を前提に充填量の制限を緩和する検討が行われている計算式の2つを用いました。現在の許容量での実験では4分間かけて全量を放出し終えた直後から室内に可燃濃度域はなく着火しませんでした。しかし、放出中に室内機直下で点火した場合は室内機が全焼しました。緩和された許容量を放出した場合は、室内機ファンを運転している場合は着火が起こりませんでしたが、室内に送風がない場合は、全量を放出し終えた後に床上2cmで点火したところ着火して、ガラス窓が飛散しました(図)。測定された室内圧や爆風圧、放射熱は直接人体に致命的な影響を与えるほどではありませんでしたが、炎を直接浴びたり延焼した場合や、飛散するガラスによる傷の程度によっては致命的な影響もあり得ると考えられます。

    研究紹介_20211130_椎名拡海(爆発利用・産業保安研究)

    図 漏えい着火事故を模擬した燃焼実験でガラス窓が飛散する様子
    (室内の送風なしで室内気の撹拌を前提に緩和された充填量を放出したケース)

     

    【成果の意義・今後の展開】

    この研究の成果は、家庭用エアコンの冷媒としてプロパンを用いた場合の漏えい燃焼事故の危害程度を評価したもので、事故シナリオ検討や事故の頻度評価と合わせてリスク評価に資するものです。また室内送風を前提に緩和した充填量が漏えいした場合には、適切に室内気を撹拌して漏えいしたプロパンを希釈する必要があることを示しています。今後は、冷媒として微燃性のフッ化炭化水素系の冷媒を用いた実規模評価実験を予定しています。

     

    ※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものです。

    2021年12月03日