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  • 日本全国の休廃止鉱山80箇所における金属濃度の経年変化と将来予測
  • 日本全国の休廃止鉱山80箇所における金属濃度の経年変化と将来予測

    岩崎 雄一(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】

    日本の金属鉱山の多くは,操業を休止した鉱山あるいは鉱業権が放棄された廃止鉱山で,合わせて休廃止鉱山と呼ばれます。カドミウム等の金属類を含む鉱山廃水が坑口や集積場から流出し、これらの廃水は坑廃水と呼ばれます。坑廃水処理が必要となる休廃止鉱山(80鉱山)では,現在も国からの補助金(年間20~30億円)も受けて,水処理が行われています。坑廃水(原水)中の金属類の濃度は,理論的には長期的に減少することが予想され,そのような結果も複数の鉱山で報告されています。では,このような傾向は,現在処理が実施されている鉱山でも予想されるのでしょうか。将来的に,坑廃水(原水)が排水基準未満になる鉱山はどの程度増えるのでしょうか。

     

    【成果】

    本研究では、日本全国の80休廃止鉱山における99箇所の坑廃水(原水)を対象に、2003年~2019年の測定データに基づき、個々の坑廃水中の7種類の元素(カドミウム、鉛、ヒ素、銅、亜鉛、鉄、マンガン)の経年変化を説明できる階層ベイズモデル(対数線形モデル)を構築しました(図)。その結果、2003年~2019年の間において、99坑廃水すべてをおしなべて推定された平均的な濃度推移は、7元素中4つの金属類で減少傾向が認められました。一方、全体平均として減少傾向と推定された金属でも、濃度推移の傾向は坑廃水間でばらついており、減少傾向が認められない坑廃水も多く存在していました。今後100年間でこれらの元素の推定濃度が排水基準値を下回る坑廃水の数を推計した結果、その増加が相対的に顕著であった鉄や亜鉛でもそれぞれ10坑廃水程度と推定されました。このことは、今後100年間でこれらの元素濃度が排水基準未満に減少する坑廃水の数は限定的である可能性が高いことを示唆しています。

     

    20220330_研究紹介_岩崎雄一

    図:本研究の概要(Iwasaki et al. 2021を改変)

     

    【成果の意義・今後の展開】

    休廃止鉱山の坑廃水処理は、鉱山下流の環境安全性を確保する上で肝要である一方で、その継続には少なくない経済的・人的なコストが必要となります。環境・社会・経済的に持続可能な坑廃水管理を行っていくためには、利水点等管理(下流の利水点等における水質の安全性を確保した上で、坑廃水を管理・監視する管理方法)や人工湿地等を用いたパッシブトリートメントの導入等の方策を検討していくことが重要といえます。

     

    引用文献

    Yuichi Iwasaki*, Keiichi Fukaya*, Shigeshi Fuchida, Shinji Matsumoto, Daisuke Araoka, Chiharu Tokoro, and Tetsuo Yasutaka (2021) Projecting future changes in element concentrations of approximately 100 untreated discharges from legacy mines in Japan by a hierarchical log-linear model. Science of the Total Environment. 786, 147500. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.147500(*これらの著者は本研究に等しく貢献)

     

    ※本研究の実施にあたり、経済産業省産業保安グループ鉱山・火薬類監理官付からご協力頂きました。また、本研究はJSPS科研費 JP18H04141及び日本鉱業協会からの助成を受けて実施しました。本研究は、環境調和型産業技術研究ラボ(E-code:https://unit.aist.go.jp/georesenv/e-code/)による成果です。

    2022年03月30日