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  • マイクロプラスチックの環境リスク評価のための概念モデルの構築と東京湾での試行的リスク評価
  • マイクロプラスチックの環境リスク評価のための概念モデルの構築と東京湾での試行的リスク評価

    内藤 航(リスク評価戦略グループ)

    • ※本研究は安全科学研究部門に所属する10人の研究者が連携して実施している。本報告は研究代表である内藤が執筆した。

    【背景・経緯】

    近年、微細なプラスチック類(マイクロプラスチック, 以下MP)による海洋生態系に対する影響が懸念されており、国内外において政治的・社会的関心が高まっています。MPの研究は環境媒体中の存在量の把握、分析手法、生態影響試験等など多数存在していますが、MPの環境リスクの大きさを知り、リスク対策の効果を評価できるような定量的リスク評価に関わる研究は限られています。そこで当部門では、MPの環境リスク評価の国内外における既存の文献レビューにもとづいて、MPのリスク評価手順を具体的に示した概念モデルの開発、東京湾を対象とした試行的リスク評価の例示、さらには、より現実的なリスク評価・管理に必要な研究課題や留意点を明らかにすることを目的とした実践的研究を実施しています。

     

    【成果】

    本研究は現在も進行中です。これまで、MPに関連する暴露解析モデルの構造やパラメータ、環境排出量推定、生態影響やリスク評価事例について、現状や論点を把握するための文献レビューを行い、MPリスク評価の問題点や課題を体系的に整理しました(例えば参考文献1,2)。MPは、サイズ、形状、素材など多次元の性質を有しており、影響を受ける海洋生物も多様です。MPのリスク評価を実施する上では、このような多次元性をどのように扱うかを定義し、リスク評価の目的に応じて、対象とする生物の範囲、MPの種類やサイズ、どのような影響を対象とするかを決めることが重要であることを確認しました。東京湾を対象とした試行的リスク評価については、種の感受性分布(SSD)を用いたリスク評価(参考文献3)に資する基礎的データセットの作成を行い、排出量・暴露解析のために製品含有MP、タイヤ摩耗粒子や合成繊維について、主要パラメータを決定し、東京湾集水域における発生量や東京湾への負荷量の推定を試みています。

     

    20220330_研究紹介_内藤航

    図:本研究の概要

     

    【成果の意義・今後の展開】

    海洋プラスチック問題の全体像を捉え、科学的にも社会的にも合理性の高い海洋プラスチックの削減策・管理方策を検討するためには、定量的なリスク評価が不可欠です。本研究の推進により、リスク評価に基づく合理的かつ適正なMPのリスク管理・対策手段の選択に資する成果が期待されます。引き続き、東京湾を対象としたMPの試行的リスク評価を実施し、その結果を公表するとともに、より現実的なリスク評価・管理の実現に資する課題や留意点を明らかにしていきます。

     

    参考文献

    1. 内藤 航 (2020) 海洋プラスチックの環境リスク評価の実施に向けてポイントと課題-マイクロプラスチックを中心に-. BIOINDUSTRY 37(9): 40-49

     

    1. 岩崎 雄一, 眞野 浩行, 林 彬勒, 内藤 航 (2021) マイクロプラスチックの水生生物への粒子影響に着目した有害性評価の現状と課題. 環境毒性学会誌 24: 53-61.

     

    1. Takeshita T, Iwasaki Y, Sinclair T, Hayashi T and Naito W (2022). Illustrating a Species Sensitivity Distribution for Nano- and Microplastic Particles Using Bayesian Hierarchical Modeling. Environmental toxicology and chemistry. 10.1002/etc.5295.

     

    ※本研究は,日本化学工業協会が推進するLRI(Long-range Research Initiative)より支援を受けて実施しました。

    2022年03月30日