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  • CO2フリー水素製造に伴うナノ固体炭素の製造・タイヤ利用の安全性評価
  • CO2フリー水素製造に伴うナノ固体炭素の製造・タイヤ利用の安全性評価

    恒見 清孝(排出暴露解析グループ)

    【背景・経緯】
    産総研では、メタンを水素と固体炭素に分解することで、二酸化炭素を排出しない水素製造プロセス技術を開発中です。その技術の社会導入を想定すると、副産物であるナノスケールの固体炭素の安全性評価が必要になります。そこで、メタン熱分解事業所での固体炭素の製造段階と、固体炭素の利用段階における大気排出を想定して、ヒト健康リスクのスクリーニング評価を実施しました。ナノスケールの固体炭素の有害性として、カーボンナノチューブの作業環境許容濃度 30 µg/m3(産総研、2012)から、曝露時間を1日8時間から終日24時間へ換算、個人差の不確実係数10を考慮し、一般環境濃度の許容レベルをおよそ1 µg/m3と仮定しました。

     

    【成果】
    まず、小~大規模のメタン熱分解事業所からの粉じん飛散によるナノスケールの固体炭素の排出量を推定するとともに、自動車タイヤへの利用での、タイヤ摩耗による固体炭素の排出量を推定しました。次に、大気拡散解析を実施し、固体炭素の大気中濃度を推定しました。メタン熱分解事業所周辺の解析には低煙源工場拡散モデル(METI-LIS)を使用し、国内でもっとも交通量が多い東京都心周辺の解析には産総研-曝露・リスク評価大気拡散モデル(AIST-ADMER)を使用しました。そして、上記の許容レベルをもとに、周辺住民のヒト健康リスクのスクリーニング評価を行いました。
    その結果、メタン熱分解事業所周辺では、小・中規模事業所でリスク懸念は無く、大規模事業所ではHEPA(high-efficiency particulate air)フィルター設置による局所排気対策で、許容レベルを超過する濃度分布は工場敷地内に留まり、リスク低減が十分に図れることを示しました(図1左)。また、固体炭素のタイヤ利用によるリスク懸念が無いことを明らかにしました(図1右)。

     

    20220902_研究紹介_恒見清孝

    図1 固体炭素の大気中濃度分布(単位:µg/m3、左:メタン熱分解大規模事業所(HEPAフィルター有り)の周辺、右:東京都心の主要幹線道路周辺(括弧内数値は100 mグリッド数))

     

    【成果の意義・今後の展開】
    メタン熱分解時に鉄系触媒と分離できない固体炭素の大量利用先として製鉄所での高炉利用が想定され、また固体炭素の大量廃棄も想定されるので、固体炭素の鉄鋼利用と埋立処分のシナリオについて安全性評価を行います。この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(メタンの熱分解による水素製造技術の研究開発、JPNP14021)の結果得られたものです。

     

    * Tsunemi, K.; Yoshida, M.; Kawamoto, A. Screening Risk Assessment at the Production and Use Stage of Carbon Nanomaterials Generated in Hydrogen Manufacture by Methane Decomposition. Sustainability 2022, 14, 6700. https://doi.org/10.3390/su1411

    2022年09月02日