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  • 路線バス車内における換気と粒子の移流拡散
  • 路線バス車内における換気と粒子の移流拡散

    篠原 直秀(リスク評価戦略グループ)

    • 内藤 航(リスク評価戦略グループ)
    • 小倉 勇(排出暴露解析グループ)

    【背景・経緯】
    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を原因とする新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年末から2022年にかけて世界的に流行しています。混雑した通勤バス車内は、狭い閉鎖空間に多くの人が集まることから、感染リスクが特に懸念される場所の一つであり、COVID-19の感染リスクを低減するための効果的かつ実用的な対策が急務となっています。多くのバスで、窓開け換気による対策が取られていますが、雨天や猛暑・極寒の天候時には窓を開けることができない状況にあります。我々は、これまでに、鉄道車両における換気回数と感染リスクの評価を公表しておりa)、また、公共交通機関以外に大規模集客施設や避難所、神社、映画館などでの計測も行っていますb), c)

     

    【成果】
    バス車両内で発生させたCO2や模擬飛沫核粒子の濃度増減を測定することで、窓開けなどの対策の効果および咳や会話で発生する飛沫核の挙動を評価しました。換気回数は、窓の開閉に関わらずバスの速度に応じて増加し、窓の開けた枚数が多いほど大きく、窓を2枚開ける場合、後部の窓2枚よりも前後の窓を開けた方が換気回数は数倍大きくなりました。また、車両前方と後方にある排気と吸気が切り替え可能な換気扇を共に「排気」とした場合は、共に「給気」とした場合の2倍以上の換気回数でした。換気回数から感染リスクを計算すると、走行時のバス車内の平均感染リスクは窓を開けることで92%減少し、窓を閉めた状態でも換気扇の稼働により35%リスクを低減できることが分かりました。
    空調を稼働させない場合、CO2と模擬飛沫核粒子の濃度増加に顕著な違いはないのに対し、空調を稼働させ車内空気を循環させた場合には、CO2と比較して模擬飛沫核粒子の濃度増加が抑えられました。これは、空調内の粗塵フィルターの捕集によるものと考えられます。

     

    研究紹介_篠原

    図 CO2と粒子の発生量に対する曝露量の割合 (A) 空調稼働時 (B) 空調非稼働時

     

    発生量に対する曝露量の割合は、各測定箇所の空気を呼吸量0.6 m3/hで発生開始から15分間吸入した場合の曝露量を発生量で割ったもの。空調非稼働時(図B)にはCO2と粒子がほぼ1:1で相関しているのに対し、空調稼働時(図A)には粒子はCO2の半分以下で相関しており、空調稼働時に粒子が半分程度除去されていると考えられる。

     

    【成果の意義・今後の展開】

    バスにおける窓開けや空調による換気量の実態およびリスク削減効果が明らかになりました。窓開けや換気扇の稼働が困難な場合(雨天時・猛暑時・極寒時や屋外空気が汚染された環境において)の感染対策としてのフィルターの効果が確認されました。今後、捕集効率(フィルターに空気を一回通過させたときの空気中の粒子の捕集効率)が粗塵フィルターに比べ一桁高い中性能フィルターの効果についての評価、飛沫感染や接触感染に関わる試験・評価も行う予定です。

    ※ 本研究は、Indoor Air. 32, e13019, 2022.(https://doi.org/10.1111/ina.13019)で公表されています。また、Indoor Air 2022年3月号の表紙(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/ina.13020)
    に取り上げられています。

    謝辞:測定環境を提供してくださった東京メトロ株式会社、試験に用いるマネキンを提供してくださった大洋工芸株式会社に感謝いたします。本研究は、坂口 淳 教授(新潟県立大学)、金 勲 上席主任研究官(国立保健医療科学院)、鍵 直樹 教授(東京工業大学)、達 晃一 シニアエキスパート(いすゞ自動車)、村島淑子 研究員(物質計測標準研究部門)、桜井博グループ長(物質計測標準研究部門)らと共同で実施しました。

    a) Shinohara N. et al. (2021) Survey of air exchange rates and evaluation of airborne infection risk of COVID-19 on commuter trains. Environment International 157: 106774.
    b) 篠原(2021)神社の建築物における換気回数. 室内環境学会学術大会要旨集: 78–79.
    c) 篠原ら(2022)避難所としての使用が計画されている建築物における換気と感染対策. 2022年度日本建築学会大会学術講演梗概集 1351–1354.

    2022年09月27日