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  • AIを用いたアルミニウムのアップグレードリサイクルプロセスの最適化 〜研究開発のDX・GX〜
  • AIを用いたアルミニウムのアップグレードリサイクルプロセスの最適化 〜研究開発のDX・GX〜

    河尻耕太郎(社会LCA研究グループ)

    【背景・経緯】
    工学的な研究開発の多くは、コストや機能など複数の目的変数に対して、製造条件等の説明変数を最適化する、多入力多目的システム最適化です。しかし、説明変数が増えると、その組合せは幾何級数的に増加する上、目的変数同士がトレードオフ関係にあると、人の認知能力や試行錯誤で最適な条件を探索することは難しくなります。一方、小規模装置を用いた研究開発は、大規模生産と比較して、単位生産量当たりの環境負荷・コストが莫大で(数倍~106倍)、環境・経済において極めて効率の悪い活動です。そこで、近年のAI技術により、多入力多目的システムを簡易に最適化出来れば、研究開発をデジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)できます。

     

    【成果】
    これまで、複数のAI解析手法を組合せ、必要最小限の実験データから、多入力多目的システムを簡易に最適化する「革新的実験計画法」を開発してきました。また、前述の革新的実験計画法において、プログラミングやAIの知識のない人が、ウェブ上で解析を実行できる、ノーコード型AI統合解析プラットフォームMulti-Sigma(https://multi-sigma.aizoth.com/)を実用化しました。本年は、アルミニウムのアップグレードリサイクルプロセスを対象にケーススタディを実施し、有効性を検証しました。
    一般的に、素材はリサイクルすることで、不純物濃度の増加に伴い機能が低下し、用途がダウングレードします。アップグレードリサイクルシステムは、不純物濃度が増加しても素材の機能を担保できる、革新的なリサイクル技術です。本研究では、Multi-Sigmaを用いて、本リサイクル技術の一部である加工熱処理プロセスの実験データを解析し、たった18個の実験データから、金属機能の4つの目的変数を同時に満たす条件を探索することに成功しました。

     

    研究紹介_河尻

    図 アルミニウムリサイクルプロセスの製造条件最適化

     

    図に示された点は全てが最適解ですが、トレードオフ関係にある目的変数のバランスが異なるPareto解です。硬度(Hardness), PS(0.2%耐力)とTS(引張強さ)は同時に最大化する一方、延性(Elongation)は減少しており、前述の3つの目的変数とトレードオフ関係にあります。Pareto解の中から、4つの目的変数の最適なバランスを持つ解を選択することで、用途に応じた最適な条件を得ることができます。

     

    【成果の意義・今後の展開】

    今回用いた解析技術により、多入力多目的システムを、少ない実験データから簡易に最適化できる可能性が示唆されました。また、Multi-Sigmaは、「誰でも、どこでも、どのようなハードウェア上でも」利用できる解析ツールです。今後は、製造プロセスの条件最適化や、製品のデザインパラメータ最適化など、広範な分野の研究開発への応用が期待できます。今後も、社会的なインパクトの大きい事例に適用し、将来技術の実用化を促進し、研究開発のDX・GXに貢献していきます。

    ※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(P14004)の結果得られたものです。

    2022年09月27日