管内爆発に対する自立可能な多孔質発泡体の爆風低減可能性
杉山勇太(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
火薬類の爆発によって発生する爆風などは周囲に深刻な被害を及ぼす可能性があり、爆発影響低減化技術の開発を行なっています。トンネル式火薬庫内などの管内で爆発した後に外部に爆風が放出される場合、出口に到達した時の爆風が強いほど放出された爆風も強くなります。そこで管内に緩衝材を設置し、爆風が出口に到達するまでにできる限り接触させることで、出口および外部の爆風低減を達成できます。過去の研究(1)では緩衝材としてガラス粒子を用いることで爆風低減を達成できました。ただ、ガラス粒子は床面に堆積するため、管内壁1面の活用に留まっていました。そこで自立可能な多孔質発泡体を用い、床面だけではなく側壁と天井にも設置することで爆風低減効果の向上を目指した数値解析を行いました。
【成果】
図(a)は本数値解析で使用した直管モデルで、1辺30 mmの正方形断面、全長330 mmの空間を設けています。ここでは5 mm厚さの多孔質ニッケル発泡体を内壁4面(床面、側壁、天井)全長にわたって設置した場合の爆風低減効果を検討しました。爆薬を閉管端付近に設置し、発生した爆風は多孔質ニッケル発泡体に接触しながら管内を伝播します。その際、抗力と熱伝達による運動量/エネルギー輸送が生じるため、爆風は管内を伝播するに従って弱くなります。出口から放出された後の爆風圧に注目するため、図(b)に管外部(図(a)のx軸上)の爆風圧分布を示します。黒線は多孔質ニッケル発泡体を設置しない基準条件、赤線は多孔質ニッケル発泡体を壁4面設置した条件の結果であり、約75%の爆風圧低減を達成しました。5 mm厚さのガラス粒子を壁1面(床面)全長にわたって堆積させた場合は約23%(1)の低減であったことから、自立可能な緩衝材を用いて、かつ設置する壁面の数を増やすことで爆風低減効果が向上できることがわかりました。
図 多孔質ニッケル発泡体を直管の内壁4面に設置した場合の爆風低減効果の検証
【成果の意義・今後の展開】
多孔質ニッケル発泡体による爆風低減効果の評価や機構の解明、多孔質ニッケル発泡体と干渉しながら伝播する爆風の挙動を検討した成果をまとめ、Journal of Fluid Mechanics(2)で発表しました。自立可能な材料を壁面に設置するだけで爆風低減が可能であることから複雑な構造を設ける必要がなく、施工や維持の点で低コストで爆風低減を達成できると期待されます。引き続き、様々な物質を緩衝材として使用する場合の研究を進め、爆風影響低減化技術の開発に活用していきたいと思います。
参考文献
1. Sugiyama et al., International Journal of Multiphase flow 136 (2021), 103546.
2. Sugiyama et al., Journal of Fluid Mechanics 938 (2022), A32.
※ 本研究はJSPS科研費18K04643の助成を受けたものです。
2022年09月27日