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  • 種の感受性分布を用いた生態リスク評価における不確実性係数の大きさについて
  • 種の感受性分布を用いた生態リスク評価における不確実性係数の大きさについて

    加茂将史(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
     種の感受性分布(SSD)とは、生物種ごとに異なる化学物質の毒性値が従う統計分布です。この分布を用いた生態リスク評価を行おうとする活動が数十年続いるものの、一部の化学物質に使われているだけで、一般的な方法にはなっていません。通常、統計分布の推定には、数十から数百のデータがなければ十分な精度の推定ができないとされています。が、毒性がわかっている生物種は多くて10種程度。そんな毒性値の数(データの数)から推定された分布は信頼できない(不確実である)、というのがSSD活用の足かせになっています。本研究では、統計モデルの解析を行い、不確実性の度合いの定量および適切な不確実係数(AF)の設定を試みました。

     

    【成果】
     リスク評価では、不確実性を打ち消すためにAFが用いられます。SSDの利活用でも、毒性値が少なくて不確実なのであれば、AFを用いればよいはずです。が、不確実性が定量されず、そのため、AFの大きさも決められないことが問題でした。本研究ではまず、不確実性は毒性値の数 (n) に依存することがわかりました。nを増やせば信頼性が上がることは直感でわかることで、最低限必要な毒性値の数などはこれまでも議論されてきました。本研究ではもう一つ、これまでの研究では見落とされていた点を明らかにしました。それは毒性値のばらつき(標準偏差の推定値: sd)が不確実性だということで、sdが大きいほど信頼性は下がるのです。図1に、不確実性の度合いを、必要とされるAFの値で表したものを示します。この図から、毒性値が15種ありそのsdが約1.1という場合(図中点B)と、たった5種しかなくともsdが約0.4の場合(図中点A)に必要なAFは同じであることがわかります。毒性値の数だけでAFを決めようとしてきた従来の議論は不十分だったのです。

     

    研究紹介_杉山

    図1:毒性値の数と推定した標準偏差(sd)に応じた不確実性の度合い(パネル中の数。ただし、log10の値)

     

    【成果の意義・今後の展開】
     これまで、最低限必要な種数は8種または13種、AFの大きさは2から5というように、SSDの活用についての条件整備がなされてきました。しかし、議論から定量性が欠けていたため、なぜ8種なのか、なぜAFは5なのか(どうすれば2に下げられるのか)という説明を与えることが困難でした。本研究により、それらに意味づけがなされます。SSDの利活用については国際的な議論が進んでいます。本研究の成果はその議論で大いに活用されると期待されます。

    ※ 本研究は、日本化学工業協会が推進するLRIの支援を受けてなされたものです。

    2022年11月28日