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  • セルロースナノファイバーの細胞毒性試験における潜在的課題
  • セルロースナノファイバーの細胞毒性試験における潜在的課題

    森山章弘(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
     セルロースナノファイバー(CNF)は、優れた物理化学的特性を持ち、様々な用途が期待される新規材料ですが、健康への影響は十分には明らかとなっていません。特にCNFは原料樹種や解繊方法毎に多種多様であり、各CNFの特徴を考慮した評価が必要です。しかし安全性評価のために多くの動物実験を実施することは現実的ではないため、培養細胞を用いた試験が注目されています。これまで多くの工業ナノ材料に対して細胞毒性試験が実施されてきましたが、CNFの報告例は少なく、試験における注意点や課題が整理されていませんでした。当部門でも、CNFの安全性評価に資する細胞毒性試験を実施しており、ここではCNFの細胞毒性試験の現状と課題を把握するため実施した文献レビューについて紹介します。

     

    【成果】
     文献レビューでは、「cellulose nanofibers」,「cellulose nanofibrils」,「cytotoxicity」を組み合わせ、医学・生物学文献データベースPubMedで過去10年の文献を検索し、目的とする条件を満たす12報を対象としました。文献を見ると、エンドトキシンや微生物汚染、CNFと細胞培地の相互作用が評価されていない報告も多く見受けられました。そこで、CNFの細胞試験において、(1)エンドトキシンの混入、(2)微生物の混入、(3)培地成分のCNFへの吸着、(4)培地成分によるCNFの凝集・分散状態の変化という、具体的に起こりうる問題について考察し、これらの問題に対して、利用可能な測定方法と解決策について議論しました。本研究成果は、国際学術誌であるJournal of Applied Toxicologyに掲載されました(Moriyama et al., 2023)。

    Moriyama A, Ogura I, Fujita K. Potential issues specific to cytotoxicity tests of cellulose nanofibrils. Journal of applied toxicology: JAT. (2023) 43,1:195-207. doi:10.1002/jat.4390

     

    研究紹介_森山

    図 CNFの細胞毒性評価における留意点

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本研究では、CNFの細胞毒性試験に関する最近の情報をレビューし、試験評価に関連する問題点と解決策についての議論を総説論文としてまとめました。これらを踏まえて細胞試験を実施することでCNFの細胞への影響についての理解が深まり、より安全なCNFの開発につながると思われます。また、CNFの安全性評価に資する適切な細胞試験系の確立はCNFを取り扱う事業者の自主安全管理の支援やCNF含有製品の開発や普及に役立つと考えます。

    ※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務
    JPNP20009)の結果得られたものです。

    2023年03月23日