介入試験による体内動態パラメータの導出
小栗 朋子(環境暴露モデリンググループ)
【背景・経緯】
化学物質は上手に利用すれば便利なものですが、一方で固有の有害性を持つことから適正管理が重要です。
2010年開始の環境省のエコチル調査は、全国10万人を対象とした出生コホート調査であり、調査開始10年を超えた今日では、次々と子供の健康と環境要因に関する知見が集まりつつあります。この知見を化学物質管理に活用するためには、生体試料中濃度と環境媒体を介した曝露量を結びつける体内動態モデルが必要となるのですが、実験動物ではなく人のデータに基づくモデルは未だ整備がされておらず、エコチル調査で得られた人の有害性評価データを化学物質管理に活用するには、情報が足りない状況です。そこで我々は、人の生体試料中化学物質濃度と環境媒体を介した曝露量とを結びつける体内動態モデルを構築することにしました。
【成果】
本研究への参加に同意が得られた成人男女100名を対象とし、化学物質曝露量をコントロールする介入試験を行いました。具体的には、介入試験5日間の間、防腐剤を含まない市販のパーソナルケア製品(シャンプー、基礎化粧品等)、食事・飲料水を提供し、それらのみを使用して生活してもらいました。介入試験0日目~5日目、14日目に排泄した全ての尿の採取、試験1日目・5日目に採血を行いました。また研究対象者自宅のハウスダストの採取も行いました。
採取した試料に含まれる防腐剤(パラベン類)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン)、可塑剤(フタル酸エステル類及び代替物質)、ネオニコチノイド系農薬、忌避剤等について計測を進めた結果、本研究デザインにより、一部物質についてこれまでに報告例の無い、経皮曝露による生物学的半減期や尿中排泄率の体内動態パラメータを算出可能であることが明らかとなりました。
図 本研究のデザイン
【成果の意義・今後の展開】
本研究で、体内動態パラメータの算出が可能となったことは、人の体内動態モデルの構築に貢献するものであると考えています。この研究デザインは投与試験に比べると、研究対象者に負担が少ないために100名規模の調査を可能とし、体内動態の個人差まで踏み込む知見が期待されます。また、既存の有害性評価データ(疫学)の活用を進めることは、動物愛護の観点から実施が難しくなった動物試験の代替としても効果的な化学物質管理と曝露リスク低減策の提案を可能とすると考えています。
※ 介入試験にご協力いただいた研究参加者の皆様に感謝いたします。本研究は、独立行政法人環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20205003)の助成により、国立環境研究所、名古屋大学、産業技術総合研究所、愛媛大学との共同で実施されました。
2023年03月23日