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  • ヒト気道三次元モデルを用いたセルロースナノファイバーの細胞影響評価
  • ヒト気道三次元モデルを用いたセルロースナノファイバーの細胞影響評価

    森山章弘(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
    セルロースナノファイバー(CNF)は、優れた物理化学的特性を持ち、様々な用途が期待される新規材料ですが、健康影響は十分には明らかとなっていません。特にCNFは原料樹種や解繊方法が多種多様であり、その特徴を考慮した評価が必要です。しかし、安全性評価のために多くの動物試験を実施することは現実的ではないため、培養細胞を用いた試験が注目されています。本研究では、これまでナノ材料や大気汚染物質の評価でも使用実績のある三次元ヒト気道モデルを用いてCNFの細胞影響評価を実施しました。本モデルは、ヒト組織を模倣した構造を有しており、一般的な単一細胞の二次元培養条件よりも生体に近い反応が期待されます。被験材料には解繊方法や繊維長の異なる3種類のCNFを用いました。

     

    【成果】
    各種CNF(CNF1~3)のスラリーに超純水を加え、自転・公転ミキサーで混練して1,000 µg/mLのCNF調製原液を作製したのち、細胞培地と混合して100 µg/mLのCNF培地分散液を得ました。コントロールは培地に超純水を加え調製したものを用いました。また、細胞膜を破綻させる陽性対照として0.1%の界面活性剤(Tween20)を用いました。ヒト気道三次元モデルを所定の時間培養後、各試料を細胞上部に添加しました。添加後24時間培養した後に細胞膜損傷レベルの評価(乳酸脱水素酵素漏出試験)を実施しましたが、いずれのCNFもコントロール群と比較して有意な細胞影響は認められませんでした。また、細胞膜損傷以外の細胞影響として炎症惹起も考えられましたが、炎症応答に係る遺伝子にも顕著な発現変動は確認されませんでした。

     

     

    図 本研究の概要と細胞膜損傷評価の結果

     

    【成果の意義・今後の展開】
    本研究では、三次元ヒト気道モデルを用いてCNFの細胞影響評価を実施しました。今回の条件では顕著な細胞影響は認められませんでした。今後はより長期間の培養試験や同一の原料樹種で繊維長のみ異なるCNFなどを試験して、細胞影響に寄与する物理化学的特性の調査を進めていきます。CNFの細胞影響とその特性との関係についての理解は、より安全なCNFの開発につながると考えます。なお、本結果は第73回 日本木材学会大会(2023年,福岡)で発表しました。

     

    ※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務JPNP20009)の結果得られたものです。

    2024年01月25日