• ホーム
  • 研究紹介
  • セルロースナノファイバー(CNF)の生態毒性試験のための多検体分析法
  • セルロースナノファイバー(CNF)の生態毒性試験のための多検体分析法

    小倉 勇(排出暴露解析グループ)

    【背景・経緯】
     CNFのような新規材料は、開発と並行して、環境に流出した場合の生態系への影響を評価することが望まれます。CNFは凝集・沈降しやすいため、CNFの生態毒性試験を適切に実施するためには、試験水溶液中のCNFの濃度や分散状態の確認が重要となりますが、既存の報告では、そのような確認はされていません。そこで、我々は生態毒性試験を実施するにあたり、まず、水溶液中のCNFを定量する方法について検討しました。生態毒性試験の水溶液には、培地成分、対象生物、餌や老廃物が含まれており、特に藻類試験の藻類、ミジンコ試験の餌のクロレラは、構成成分としてセルロースを含んでいることから、その干渉を考慮しました。また、より簡易・安価で、多検体の測定に適した分析法を目指しました。

     

    【成果】
     水溶液中のCNFを定量する方法として、二つの方法を検討しました。一つ目は、糖類の分析に用いられているフェノール‐硫酸法をマイクロプレートで行えるように改良した方法です。CNFを硫酸で分解し、フェノールで呈色させて、分光光度計で吸光度を測定することによりCNFを定量します。マイクロプレートを利用することにより、試薬の使用量を減らすとともに多検体一斉分析を可能にしました。二つ目は、酵素(セルラーゼ)を用いてCNFをグルコースに分解し、グルコースアッセイキットを用いて分光光度計でグルコースを定量する方法です。それぞれ、適切な分析条件を見出しました。フェノール‐硫酸法の方がより簡易・安価であるのに対し、酵素分解法の方がより感度が高く、夾雑物の影響も小さいことが分かりました。これらの方法は、濃度や夾雑物によって使い分けするのが良いと考えています。本成果は、下記の国際学術誌に掲載されました。

     

    図 生態毒性試験のためのCNF濃度の分析法

     

    【成果の意義・今後の展開】
     確立した二つの分析法を活用し、実際にCNFの生態毒性試験において、CNFの濃度計測や分散安定性の評価を行いました(Tai et al., 2024a; Tai et al., 2024b)。今後、さらに多様なCNFについて生態毒性試験を進めるとともに、分析法の高感度化、簡易化に取り組みます。本方法は、CNFのみならず、一般のセルロース分析も含めて、広範囲の用途に適用可能です。

     

     

    ※この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP20009)の結果得られたものです。

     

    2024年07月17日