水素エネルギーの有効な利活用に向けた燃焼挙動解析のDX推進
佐分利 禎(爆発利用・産業保安研究グループ)
【背景・経緯】
水素は持続可能なエネルギー源として注目されていますが、空気中で広い濃度範囲で燃焼し、低エネルギーで着火するため、燃焼・爆発のリスクが高いとされています。現在水素ステーションでは82MPaの高圧水素が運用されており、水素漏えい事故時の影響評価には実験的に厳しい条件下での影響予測技術や緊急対策技術の確立が課題です。その解決策として、現実空間をデジタル空間上でリアルタイムに再現し、詳細なシミュレーションや予測分析を可能にするデジタルツイン技術が注目されており、安全性評価研究のDX推進にも密接に関連しています。今回は岐阜大学・埼玉大学との共同研究で進めているデジタルツインの実現に向けた取り組みとして、水素噴流火炎の非定常特性の抽出に関する研究を紹介します。
【成果】
水素を取り扱う各種設備における安全評価では、漏えい時の拡散挙動や着火源の存在による着火挙動、火炎の影響範囲などの把握と理解が必要となります。本研究では、水素火炎映像をもとに、その燃焼挙動の特徴を把握し、火炎の構造や特性を瞬時に把握・分類することを目指しました。図1に示す実験系を用いて、水素噴流火炎の自発光を高速度カメラで撮影し、現実空間の情報を取得しました。得られた時系列画像から特徴分析用のデータセットを構築し、FFT-iFFT解析や特異値分解(Singular Value Decomposition, SVD)解析などの手法で特徴分析を行いました[1]。これにより、火炎のフラッピングや火炎中の渦の揺らぎ構造と強い相関を持つ周波数成分や、水素噴流火炎の主要構造を構成する特徴量の抽出が可能になりました[2]。図2には、特異値分解によって元データから抽出された特徴パターンであるモードを示します。モードに対応する特異値から元データに対する寄与度が把握できるようになりました。
図1 実験装置概要図
図2 特異値分解結果
[1] M.Asahara、K.Iwatsuki、D.Kang、I.Kambayashi、T.Saburi、K.Iwasaki、T.Uehara、T.Miyasaka、Int. J. Hydrog. Energ.、Vol.61、No.3 (2024) pp.1456-1472.
[2] 森隆徳、鈴木那和、朝原誠、姜東赫、上林出、岩月一馬、宮坂武志、水素噴流火炎の可視化による非定常特徴の抽出、可視化情報シンポジウム2024.
【成果の意義・今後の展開】
現実空間でのさまざまな物理状態や現象について、今回紹介した映像情報に加えて、濃度、音響、振動情報などの観測データをデジタル空間に反映するデジタルツイン技術を確立することで、現実に起きている現象の把握と管理だけでなく、定常状態からの逸脱や事故時の被害予測までをデジタル空間上で実現できるようになります。今後、水素ステーション等における高圧水素設備の管理技術のDX化を目指し、研究を推進していきます。
2024年10月10日