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  • 未計測粒径を含むマイクロプラスチック粒子の個数濃度推定と濃度換算
  • 未計測粒径を含むマイクロプラスチック粒子の個数濃度推定と濃度換算

    内藤 航(リスク評価戦略グループ)

    • 岩崎雄一(リスク評価戦略グループ)
    • 上田紘司(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
    マイクロプラスチック(MPs)は、環境中に存在する5mm未満の微小なプラスチック粒子です。特に海洋で多く見つかり、生態系への影響が懸念されています。MPsは大きさや形状、素材が多様であり、一般的な化学物質のリスク評価方法では適切に評価できません。モニタリングによって得られるMPsの濃度データは、通常300μm以上の粒子数で示されます。一方で、生態影響試験では300μm未満のより微小な粒子を対象に重量濃度が使われることが一般的です。そのため、モニタリングと生態影響試験で使用される粒径範囲や濃度単位の不一致が問題とされています。この不一致を解消し、曝露および有害性データの整合化を図る評価アプローチが提案されています1, 2)。本研究では、提案された評価アプローチである、通常のモニタリングでは未計測の粒径範囲を含むMPsの濃度推定および粒子数濃度を重量などの単位に換算する方法を国内データに適用し、結果を考察しました。
     

    【成果】
    本研究では、東京湾鶴見川河口域で採取した20~4565μmの粒径分布データを用いて、未計測の粒径範囲を含む1~5000μmの濃度を推定するためのスケーリングパラメータ(α)と補正係数(CF)を算出しました(図1)。MPs濃度が連続的なベキ分布に従うと仮定し、最尤法でα(2.32)を推定し、そのα値を基にCFを導きました。これにより、通常のモニタリングで計測される350~5000μmの範囲外(1~350μm)の個数濃度も推定可能となりました。複数のデータと既存の報告から、α値の違いが濃度推定に大きな影響を与えることが確認されました。また、各粒子の重量、体積、表面積を計算し、それぞれの単位で濃度を換算しました(図2)。これにより、検出されたポリマーの種類や粒子サイズによって、地点ごとのMPs濃度の相対的な関係が変わることが明らかになり、リスク評価の優先順位も変わる可能性が示唆されました。本研究の詳細は、水環境学会誌(https://doi.org/10.2965/jswe.47.105)に掲載されています。

     

    図1 未計測範囲を含んだ個数濃度推定の概念図

    横軸は粒径(常用対数スケール)で,○は実測データを示します。縦軸(P(X>=x))は、任意の粒径(横軸)においてその粒径以上のマイクロプラスチック粒子が含まれる確率を示します。

     

     

    図2 採取地ごとの個数実測濃度および体積、重量、表面積を基にした換算濃度

    PE:ポリエチレン、PET:ポリエチレンテレフタレート、PMMA:ポリメチルメタクリレート、PP:ポリプロピレン

     

    【成果の意義・今後の展開】
    この成果は、多様なMPsの環境リスク評価のあり方を議論する土台となるケーススタディとして活用されることが期待されます。特に、異なる粒径範囲や濃度単位を統一的に扱える手法が提示されたことにより、より精度の高いリスク評価が可能となります。今後は、異なる環境条件下での適用や、さらに詳細なデータ解析を進め、合理性の高いMPsの環境リスク管理・対策に資するデータや評価の例示をするための研究を進める予定です。

     

    【参考文献】
    1) Koelmans et al. (2020) Environ. Sci. Technol. 54, 12307-12315
    2) Kooi et al. (2021) Water Res. 202, 117429

     

    ※ 本研究は,一般社団法人日本化学工業協会が推進するLRI(Long-range Research Initiative;化学物質の環境影響および安全性に関する長期自主研究)により支援されました。

    2024年10月10日