2023年度火薬類保安技術実験(野外実験)
松村知治(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
経済産業省は、通商産業省時代の1961年から各地の陸上自衛隊演習場を借用して、火薬類の大規模な爆発実験(火薬類保安技術実験、以下、野外実験)を実施しています。野外実験で得られた成果は、法令の改正や保安行政上の指導のための資料として活用されています。産総研は、この実験に第1回目(国立研究所時代)から継続して参加・協力し、実験計画の立案、実験データの計測・評価と報告書の執筆、技術基準案の検討に携わっています。
火薬類の貯蔵施設である火薬庫など火薬類関連施設は、十分な保安距離が確保された安全な場所に設置されますが、近年、火薬庫立地後の周辺環境の変化(住宅地等の拡大)に伴い、保安距離と貯蔵量の削減が求められる事案が起きています。
【成果】
2023年度は、火薬類関連施設の爆発飛散物に関する技術データを得るために、含水爆薬1 kg、3.2 kg、10 kg および32 kgを用いて全4回の爆発実験を行い、爆薬量でスケール化された(爆薬量の3乗根に比例した)大きさ及び距離に設置したL型擁壁の爆発飛散物の飛散状況を計測しました。なお、平成22年と平成25年には、同じく爆薬量でスケール化されたコンクリート製のボックス構造および土堤前面擁壁の爆発飛散物に関する実験が実施され、最大飛散距離が爆薬量のそれぞれ0.138乗と0.139乗に比例して大きくなる実験式が得られています。
本実験の結果、L型擁壁の爆発飛散物の最大飛散距離が爆薬量の0.145乗に比例する実験式が得られました。また、高速度カメラ映像から飛散物の飛散挙動を解析したところ、重量飛散物は概ね仰角10度以下で地面に沿って飛散し、軽量飛散物のそれは最大24度という結果でした。なお、本実験の詳細を含む委託事業報告書1) は経済産業省のホームページで公開中です。
図 高速度撮影された飛散物の発生状況(左:t = 50 ms、中:t = 100 ms、右:t = 150 ms)
※数字は点火からの経過時間
【成果の意義・今後の展開】
2023年度の野外実験では、L型擁壁の爆発飛散物の最大飛散距離に関する実験式が得られました。最大飛散距離の実験式が種々の形態の爆発飛散物に対して成立することが確認され、これらの実験式を適用すれば、将来的に実規模の火薬類関連施設が万が一爆発した場合の爆発飛散物の最大飛散距離を推定できる可能性があります。今後、行政が適切な保安距離・貯蔵量を判断する際に、本研究の成果が活用されることを期待します。
※本研究は、経済産業省、防衛省、公益社団法人全国火薬類保安協会、公益社団法人日本煙火協会、日本火薬工業会、その他関係機関・団体のご協力を得て実施しました。ここに付記し、感謝申し上げます。
【文献】
1) 全国火薬類保安協会、令和5年度火薬類爆発影響低減化技術基準検討事業報告書 (2024).
2025年03月25日