水消費による生活用水不足を通じた人間健康への潜在的影響:LCAのための影響評価係数の開発
本下晶晴(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
水資源は我々の生活や生産活動に必要不可欠な資源であり、かつ生態系保全とも深い関わりがあることから、その持続的な利用が求められています。LCAの中でも水消費による影響評価が注目されており、我々はこれまで生活用水、灌漑用水が不足することによる健康被害(感染症、栄養失調など)の評価モデルを開発してきました。しかし、生活用水の不足による下痢などの感染症被害は、その地域において安全な水がどのくらい利用可能であるかに左右されると考えられます。また、安全な水を利用できる人口割合も国によって大きく異なります。こうしたファクターをこれまでの評価では十分に考慮することができていませんでした。
【成果】
そこで今回、世界107カ国を対象として、下痢の罹患を左右すると考えられる安全な水の1日あたり使用量を4つのレベルに区分した下痢被害の影響係数(Effect Factor:EF)を開発し、各レベルの人口割合を国ごとに算定してEFの加重平均値を求めることで各国における生活用水不足による下痢被害の影響評価係数を開発しました。水1m3の不足による下痢被害は国によって7.5×10-5〜8.7×10-4DALY(Disability Adjusted Life Years(障害調整生存年数))と大きな幅があることが明らかとなりましたが(図)、安全な水へのアクセス性のレベルに応じた人口割合とリスクを考慮することで既存モデルよりも72〜98%程度低い値となっています。これに基づいた水不足による下痢被害の推定値は水不足以外の要因も含めた下痢被害に関するWHO推計値の約50%に相当しており、下痢被害の中でも水不足による影響が小さくないものと推定されました。今回のアップデートにより、同じ国の中でも安全な水へのアクセスの格差があることを反映することで、より各国の状況を正確に反映した影響評価が可能となりました。
本成果は下記論文にて公表しています。
Debarre et al. (2025) Int. J. Life Cycle Assess. 30, 273-284
https://doi.org/10.1007/s11367-024-02395-7
図 世界の流域で水1m3を消費することで誘発する感染症(下痢)被害の推定結果
(上記論文より転載)
【成果の意義・今後の展開】
これまですでに開発している水消費による灌漑用水不足に伴う栄養失調被害評価モデルに加えて、今回の成果は国連環境計画によるライフサイクル影響評価手法の国際合意形成に基づいた影響評価モデル開発プロジェクト(Global Guidance for Life Cycle Impact Assessment Indicators:GLAM)の中の水消費に伴う生活用水不足による被害を評価するための推奨モデルとして公開されており(https://www.lifecycleinitiative.org/activities/life-cycle-assessment-data-and-methods/global-guidance-for-life-cycle-impact-assessment-indicators-and-methods-glam/)、今後様々な製品や活動のLCAに利用されることが期待されます。
2025年03月25日