燃焼反応における化学発光の定量測定
松木亮 (爆発利用・産業保安研究グループ)
【背景・経緯】
可燃性ガスの燃焼を可視化する基本的な手法は、火炎の発光を観測することです。特に、燃焼中の化学反応から生じる化学発光は、そのスペクトルと発光強度が燃焼の状態を反映するため、燃焼現象の解析に活用することができます。化学発光の可視化を通じて燃焼状態に関する正確な情報を得るためには、化学発光をもたらす反応機構を理解する必要があります。しかし、化学発光に寄与する個別の化学反応を正確に測定することには課題があり、信頼できる速度定数が得られている反応は限られています。本研究では、衝撃波管装置を用いた高温反応実験において、化学発光を定量的に測定する方法を検討しました。
【成果】
衝撃波管では、試料気体に衝撃波が入射することで生じる高温場において化学反応を進行させることができます。そこから生じる発光を、図のような光学系を用いて分光し検出することで、化学発光の計測を行います。原理的には、放射強度が既知の参照光源を利用すれば光強度を校正することができますが、そのためには光検出器に入射する光線を網羅するように光源を配置する必要があり、現実的な手段ではありません。本研究では、相対的な分光感度特性は標準光源を用いて校正し、絶対値については速度定数が既知の化学発光反応を参照として求めました。参照としたのは水素と酸素を含む混合気の高温反応から生じる励起ヒドロキシルラジカルの発光です。この系で進行する化学発光過程については信頼性の高いデータが存在するため、それと比較することで光子発生速度と検出信号強度の関係を求めました。これらの校正により、紫外から可視の全域で定量的な発光測定が可能になりました。
図 実験装置の模式図と検出系の光子発生速度に対する感度特性
【成果の意義・今後の展開】
発光強度の校正方法を確立したことで、燃焼反応の化学発光を定量的に計測できるようになりました。今後はこの成果を活用して、燃焼の化学発光に関する反応機構の解明と、その定量的な予測が可能な反応モデルの構築を目指します。その一環として、現在は含窒素化合物の熱分解および高温酸化過程における化学発光の研究を行っています[1,2]。また、水素の燃焼でみられる微弱な可視発光[3]の発生機構を解明することも今後の課題です。
※ 本研究はJSPS科研費24K07350の助成を受けたものです。
[1] Akira Matsugi, “Chemiluminescence during the high-temperature pyrolysis and oxidation of ammonia”, Combust. Flame 269 (2024) 113706.
[2] Akira Matsugi, “Chemiluminescence of NO2 at high temperatures”, Combust. Flame 273 (2025) 113979.
[3] https://riss.aist.go.jp/research/20240318-2807/
2025年03月25日