全国の2050年までの温暖化対策の中期ロードマップ分析評価
歌川 学(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
気候変動の悪影響抑制のため、脱炭素転換が求められています。IPCC第6次評価報告書統合報告書は、気温上昇1.5度未満抑制(工業化前比)の世界のCO2削減として、2030年に2019年比48%削減、2035年に65%削減、2040年に80%削減、2050年頃排出実質ゼロを示しました。温室効果ガスは2030年に19年比43%削減、2035年に60%削減、2040年に69%削減です。日本の国別目標は2030年に13年比46%削減目標、2050年排出実質ゼロに、2035年に13年比60%削減(19年比53%削減)、2040年に73%削減(19年比68%削減)を追加しました。
確実な排出削減のためシナリオ検討を行い、目標達成のための対策を合理的に選択し実行することが必要で、全体を見て排出削減効果が大きいもの、費用対効果が高いものなどを定量的評価に基づき計画的に取り組む必要があります。
【成果】
代表的対策による2050年までの最終エネルギー消費、CO2排出量の定量評価を行いました。評価においては、活動量は第7次エネルギー基本計画のマクロフレームを参考にし、半導体製造業とデータセンターの審議会での事業者ヒアリングも参考にしました。その結果、CO2排出量は、2030年に2013年比67%削減(2019年比60%削減)、2035年に80%削減(同76%削減)、2040年に90%削減(同90%削減)、2050年に95%以上削減可能性が明らかになりました(図)。最終エネルギー消費は2030年に2013年比50%削減、2040年に60%削減が見込まれ、電力消費量は電化、半導体製造業とデータセンターの成長を考慮して評価した結果として2030年に2013年比30%、2040年に24%削減が見込まれます。温室効果ガスは、2030年に2013年比64%(2019年比59%削減)、2035年に74%削減(同70%削減)、2040年に85%削減 (同83%削減) が見込まれます。
対策により化石燃料輸入費と国内光熱費を大きく削減できるため対策の多くはもとがとれると見込まれます。普及には専門的知見の普及も有効と考えられます。
図 導入タイミングを踏まえた対策技術普及予測による2050年までのエネルギー起源CO2排出削減(歌川・明日香,2024,明日香ら,2024)
歌川学・明日香壽川「2035年の全国のエネルギー起源CO2削減対策」日本環境学会報告、2024年
明日香寿川・歌川学・朴勝俊・松原弘直・鈴木一光「省エネを中心としたエネルギーシナリオの経済合理性」、環境経済政策学会報告、2024年
【成果の意義・今後の展開】
今回は全国の脱炭素対策とその結果について、主に省エネの各部門で対策分析の強化・深掘りについて試算を実施しました。更新時の省エネ設備機器や燃費の良い車や電気自動車の導入、新築時の断熱建築の導入および既存建築の一定割合の改修、電気・熱ともに再エネ設備の導入など、確実な技術対策による実態にあった対策ロードマップづくり、計画策定、修正、対策強化のシナリオ別の評価がより容易に可能になります。
※ 本研究は、科学研究費補助金基盤研究C「太陽光・風力発電の大量連系と電力需給バランスを考慮したCO2削減効果の推計」により実施しました。
2025年03月25日