河川洪水による世界の産業における操業停止の経済的損失と国際貿易を通じた波及影響
MTIBAA Slim(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
現在の世界経済は、国境を越えてつながるサプライチェーンによって成り立っています。しかし、気候変動の影響で増加する河川洪水は、生産拠点の操業停止のリスクに加えて、その影響が貿易を通じて他国へ波及することで、企業活動に大きな損失をもたらす可能性があります。そのため、洪水リスクを的確に把握し、事業継続計画やリスク管理に活用するための評価手法が必要です。
従来の世界規模のリスク評価では資産の直接被害に重点が置かれ、操業停止による経済的損失や国境を越えた影響の連鎖は十分に考慮されていません。本研究はこの課題に対応し、洪水による操業停止の直接的な経済損失と、国際貿易を通じた間接的な波及影響の大きさを定量的に評価する手法を開発しました。
【成果】
本分析の結果、世界の農業・工業・サービス業における洪水による操業停止の年間経済損失額の合計は約1,940億ドル(世界全体のGDPの約0.2%)に上ることが分かりました。損失規模は国や産業によって大きく異なり、中国、インド、米国、インドネシア、エジプトなどの主要国で特に大きな影響が見られました。
また、こうした経済的損失が貿易を通じて波及する間接影響の大きさを表す洪水リスク集中度指標(LHHI)を提案し、洪水リスクが国際貿易ネットワークを通じてどのように広がるかを可視化しました(図)。例えば工業セクターでは、中国、米国、ロシア、ドイツなどにおける洪水の被害が他国に波及しやすい高リスク輸出国となり、これらの国からの輸入への依存度が高いカナダ、メキシコ、モンゴルなどは、間接的な洪水影響を受けやすいことが示されました。これらの結果は、特定の貿易相手国への集中や産業依存度を考慮し、可能な範囲で調達先を分散することが、間接的な洪水リスクの低減につながる可能性を示しています。

図 世界の産業における輸出・輸入別の洪水リスク集中度指標(LHHI)の
世界平均からの解離度(zスコア)
(Mtibaa et al. (2025)より)
【成果の意義・今後の展開】
本研究成果は、洪水による直接的なリスクだけでなく世界貿易で繋がったサプライチェーンの途絶リスクを定量的に把握することができ、災害に対してよりレジリエントなサプライチェーン構築のための企業戦略、通商政策やインフラ投資、国家レベルのリスク管理政策の立案に資することが期待されます。今後は、より詳細な地域別・産業別分析を進めることで分析の精度を高め、企業が自社サプライチェーンのリスク評価や強靱化に活用できる情報提供を目指します。
※ Mtibaa, S., Maeno, K., Islam, K., & Motoshita, M. (2025). Potential risk by riverine floods in the global economy: Sector-wise assessment of direct and indirect impacts through international trade. Journal of Environmental Management, 393, 127041, CC BY-NC-ND 4.0 https://doi.org/10.1016/j.jenvman.2025.127041
2026年06月03日

