世界の金属・鉱物サプライチェーンのライフサイクルインベントリ:包括的なデータレビューと分析・再構築
Kamrul Islam(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
再生可能エネルギーや電動車など、エネルギー転換を支える技術には多くの鉱物や金属が不可欠です。しかし、それらの環境負荷は、採掘される地域や鉱床の種類、精錬・加工方法によって大きく異なります。そのため、製品や技術の環境影響を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)では、信頼性の高いライフサイクルインベントリ(LCI)データが重要となります。これまでにも関連する研究が公表されていますが、データの範囲や前提条件が統一されていないという課題がありました。その課題解決のため、世界の専門家が集まってワーキンググループを構成し、世界の鉱物・金属サプライチェーンに関するLCIデータの包括的なレビューを行い、その結果に基づいてデータセットの整理・統合を行いました。
【成果】
本研究では、308件のLCA研究を基にレビューを行い、285件のLCIデータセットを収集・評価しました。さらに、共製品間の環境負荷の配分方法、計算ルール、およびシステム境界を統一することで、最終的に53元素・163の生産ルートを対象とする220の標準化LCIデータセットを構築しました(図)。これらのデータは、生産地域、鉱床の種類、加工技術、製品形態、一次資源かリサイクル資源かといった違いを区別しています。中国、豪州、欧州、北米など主要生産地域も明確に反映されています。一方で、スズ(Sn)、ガリウム(Ga)、タンタル(Ta)などではデータ不足が残り、多くの元素でリサイクル工程の情報が限定的です。また、これらの生産ルート別データを基に、現在の供給構造を反映した「市場平均モデル」も構築した一方、元素ごとの市場カバー率は1~99%と幅があり、代表性向上と同時に今後の課題もあります。すべてのデータはオープンアクセスで公開されており、今後のLCAにおいて、より透明性が高く詳細な分析が可能になります。

図 元素ごとに構築した最終LCIデータセット数の一覧
*RE(希土類元素)およびPGM(白金族金属)のLCIデータセットは、同一の生産ルートから共産される複数元素を対象としており、それぞれ15元素および5元素をまとめてカバーしている。
【成果の意義・今後の展開】
本研究で整備・公開した統一LCIデータにより、鉱物・金属サプライチェーンの環境評価は、より詳細で一貫性のある、透明性の高いものになります。これは原材料だけでなく、下流製品の環境評価の信頼性向上にも貢献し、様々な製品の環境規制への対応にも役立ちます。今後は、データ不足の補完、リサイクル工程の精緻化、物質・水収支の整合性向上、市場シェア推計の精度向上を進め、変化の速い国際供給構造をより正確に反映できるデータセットの構築を目指します。
※ Lai, F., Muller, S., Philippe, A., Istrate, R., Xicotencatl, B.M., Aski, A.M., Fons, A.M., Segura-Salazar, J., Saldivar, J.S., Cimprich, A., Northey, S., Lima, L.S., Boone, L., Yokoi, R., Islam, K., Paschalidou, I., Cerdas, F., Balboa-Espinoza, V., Koyamparambath, A., Hennioui, D., Collignon, V., Reys, A., Sakatadi, G.S., Dewulf, J., Steubing, B., Helbig, C., Lefebvre, G., Blengini, G.A., Superti, V., Motoshita, M., Sonnemann, G., Awuah-Offei, K., Young, S.B., Murakami, S., and Beylot, A. (2026). Life cycle inventories of global metal and mineral supply chains: a comprehensive data review, analysis and processing. Resources, Conservation & Recycling, Volume 226, February 2026, 108709, https://doi.org/10.1016/j.resconrec.2025.108709
2026年06月03日

