東京湾における環状揮発性メチルシロキサンの濃度分布と経年的変化
内藤 航(部門付き)
【背景・経緯】
近年、シリコーン製品に広く使用される環状揮発性メチルシロキサン(cVMS:D4、D5、D6)は、その難分解性や生物蓄積性の可能性から、国際的に注目されてきました。これらの物質は水溶解度が低い一方で底質中に蓄積しやすく、沿岸生態系に対する長期的な影響が懸念されています。このため、化学物質管理や規制の検討を支える科学的根拠として、信頼性の高い環境モニタリングデータの蓄積が重要となっています。東京湾は人為的活動に伴う化学物質負荷が大きい海域であり、cVMSの時空間分布や経年的変化を把握することは、国内外の動向を踏まえたリスク評価およびリスク管理に資する貴重な基礎情報として重要です。
【成果】
本研究では、2011~2021年にわたり東京湾で採取された底質および魚類試料を用いて、cVMSのD4(オクタメチルシクロテトラシロキサン)、D5(デカメチルシクロペンタシロキサン)、D6(ドデカメチルシクロヘキサシロキサン)の濃度分布と経年的変化を解析しました。2021年の底質中濃度はD5が最も高く、河川流入の影響を反映して湾奥から湾口にかけて減少する傾向が確認されました。経年的変化を解析した結果、すべて地点において有意な増加傾向は認められず、一部地点ではD4、D5、D6の各成分で減少傾向が認められました。魚類中濃度は種間で差が見られましたが、高栄養段階種での顕著な蓄積は確認されませんでした。スクリーニングレベルの生態リスク評価の結果、現在の濃度レベルは底生生物に対しリスクが低いことが示されました。
本成果は論文として公表されています。
(Naito et al., Environ Monit Assess, 2026, https://doi.org/10.1007/s10661-025-14975-7)

図 東京湾における環状揮発性メチルシロキサン (vCMS)濃度の経年変化
※ グラフ中の色は、底質中濃度ではサンプリング地点の違いを、魚類体内濃度では魚種の違いを示している。
【成果の意義・今後の展開】
本成果は、実際のモニタリングデータに基づき東京湾におけるcVMSの存在実態と経年的変化を評価した研究であり、閉鎖系水域におけるcVMSの濃度の実態を知る科学的基盤として、リスク管理方策の検討への活用が期待されます。今後は、他水域との比較や水圏生態系における生物蓄積性の理解、評価を進める予定です。
※ 本研究は日本シリコーン工業会(SIAJ)の支援により実施されました。
2026年06月03日

