ギンザケ稚魚に対するPPDQ類の急性毒性評価
眞野 浩行(生態・健康影響評価研究グループ)
【背景・経緯】
p-フェニレンジアミン(PPD)化合物の1つである6PPDはタイヤの老化防止剤として使用されている化学物質です。この物質の酸化生成物である6PPDQ(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)は、ng/L(ngは1 gの10憶分の1)オーダーの非常に低い濃度でギンザケ(Oncorhynchus kisutch)に致死的な影響を与えることが報告されています。老化防止剤として使用され、6PPDと同じ化学分類に属するPPD化合物は、いずれも、酸化されてキノン誘導体に変化する可能性がありますが、6PPDQと同様にギンザケ個体に致死的な影響を引き起こすかどうかは十分に評価されていませんでした。そこで、3種類のPPDQ(6PPDQ、7PPDQ、8PPDQ)を対象に、ギンザケ稚魚(図a)を用いた短期的なばく露試験を行って急性毒性を調査・比較しました。
【成果】
本研究では、6PPDQの試験では5濃度区(32~500 ng/L)、7PPDQ では5濃度区(1500~35400 ng/L)、8PPDQでは1濃度区(100000 ng/L)を設定し、5Lガラスビーカーに入れた試験溶液にギンザケ稚魚をばく露して、24時間後に生存していた個体数を数えました。6PPDQと7PPDQについて、試験溶液の測定濃度に対する生存個体の割合から、急性毒性値として、半数致死濃度(50% Lethal concentration; LC50)を求めたところ、6PPDQ及び7PPDQのLC50値(95%信頼区間)は、それぞれ、41.5(21.6-61.4)ng/L(図b)、5390(2260-8530))ng/L(図c)でした。また、8PPDQの試験では、ばく露した濃度(測定濃度は60600 ng/L)でギンザケの死亡は観察されませんでした。これらの結果から、6PPDQに比べて、ギンザケ稚魚に対する7PPDQ及び8PPDQの急性毒性は低いことが示され、化学構造の違いが急性毒性の違いに影響していることが示唆されました。また、本成果は、国際誌に掲載されました1)

図 ギンザケ稚魚(a)と6PPDQ(b)及び7PPDQ(c)の測定濃度に対するばく露24時間後のギンザケの生存個体の割合
【成果の意義・今後の展開】
本研究は、私たちが知る限りで、ギンザケに対する7PPDQ及び8PPDQの急性毒性を報告した初めての研究になります。本研究で得られたデータは、タイヤの老化防止剤の代替物質の開発や、細胞毒性試験等の代替試験手法開発のための基礎データとして活用が見込まれます。今後は、6PPDQの代謝生成物質の急性毒性評価、6PPDQと環境要因の複合影響評価等の研究を実施して、6PPDQの毒性メカニズムの解明や環境影響評価を進めていく予定です。
※ 謝辞
本研究の一部は、株式会社ブリヂストンの資金提供を受けて実施されましたが、研究内容および結論は著者らの判断によるものであり、企業からの影響は受けておりません。
1) Mano, H., Moriyama, A., Hara, J., Tai, R., & Naito, W. (2025). Acute Toxicities of Three Para-Phenylenediamine Quinones to Coho Salmon (Oncorhynchus kisutch) Juveniles and Embryonic Cells. Bulletin of environmental contamination and toxicology, 115(6), 78. https://doi.org/10.1007/s00128-025-04150-6
2026年07月10日

