• ホーム
  • 研究紹介
  • 水生生物をどこまで守れば十分か?:水質環境基準の設定における市民の選好を調査
  • 水生生物をどこまで守れば十分か?:水質環境基準の設定における市民の選好を調査

    岩崎 雄一(生態・健康影響評価研究グループ)

    【背景・経緯】
     水生生物保全を目的とした化学物質管理を進める上で、「水生生物をどこまで守るのか」という保護(保全)レベルを決める必要があります。例えば、個々の生物が死亡する影響の防止を目的とするのか、あるいはそのような個体レベルの影響は許容しつつ、個体群(集団)の維持を目的とするのか、ということです。水生生物保全のための化学物質管理では一般に、個体群やそれより上位のレベルを保護することが目標とされています。しかし、このような保護レベルについて一般の人々がどのように考えるかは、これまで調べられていませんでした。本研究では、水生生物保全を目的とした水質環境基準の設定において、人々がどの保護レベルを望むのか、また、その選好にどのような要因が関連するかを調べました。
     

    【成果】
     日本全国約1,200名を対象にオンラインアンケート調査を行い、水質環境基準を設定する際に、魚類、甲殻類、藻類などをどのレベルで保護するのがよいと思うかを質問しました(図)。保護レベルは、「DNAや細胞への影響を防ぐ」「個体の死亡を防ぐ」「個体群を維持する」など、生物学的な階層に沿って設定しました。その結果、いずれの生物グループでも半数以上が、最も厳しい「DNAや細胞への悪影響がないように守るべき」を選択しました。一方、化学物質管理で一般的な個体群レベル以上の保護を選択した人は15%程度にとどまり、実務上の保護目標と人々が望む保護レベルとの間に隔たりがあることが示されました。加えて、水生生物の保全意識や化学物質に対するリスク認知が高い人、自然との心理的なつながりが強い人ほど、また、生物種を見分ける能力が高い人や年齢が高い人ほど、より厳しい保護レベルを望む傾向がみられました。
     

    図.水質環境基準の設定において人々が望む水生生物の保護レベル

    オンラインアンケート調査の結果、生物グループによらず、半数以上の回答者が最も厳しい「個体内」レベルの保護を選択しました。図は、Iwasaki et al.(2026)のFigure 1(CC BY 4.0 ライセンス)を改変。
     

    【成果の意義・今後の展開】
    生態リスク評価において「何をどこまで守るべきか」は、長い間取り組みたいと考えていた問いの1つです。今回得られた人々の選好は予想外でしたが、DNAや細胞への影響がどのような意味を持つかを回答者が正確に理解できていたかは明らかではなく、この選好を実際に保護目標に反映すべきとは考えていません。むしろ、実際の管理において、市民との対話や合意形成を行う際に、このようなギャップが潜在的にありうることを理解しておくことが大事だと考えています。
     
     

    参考文献

    Iwasaki Y, Shibata Y, Soga M (2026) How much protection is enough? Public preferences for aquatic life protection in water quality standards. Integrated Environmental Assessment and Management, vjag091, DOI: 10.1093/inteam/vjag091

    2026年10月21日