産業活動に伴う正の効果(GDP創出)と負の効果(環境負荷)のバランスをグローバルサプライチェーン全体で評価する分析フレームワークを提案
前野啓太郎(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
産業の生産活動はグローバルサプライチェーン(GSC)を通じて世界各地で環境負荷を誘発する一方、GDP貢献など社会経済的便益も同時に創出しています。しかし既存のGSC持続可能性評価に関する主要な分析手法は前者のような負の側面に焦点を当てるものがほとんどであり、それらは両側面を包含する視野に欠けています。負の側面のみの評価に基づく対策(例えば、GSCにおける負荷過多地域からの原料調達先移転)は正の効果を相殺してしまいかねず、GSC全体での持続可能性向上には両側面を包括的に考慮した対策立案が重要になります。そこで本研究は、産業活動がGSCを通じて各地域で生み出す正の効果と負の効果のバランスを評価する分析手法を提案しました。
【成果】
本研究は、GSCにおける自然資本損失リスクとして近年産業界で注目度が高まる淡水資源消費に焦点を当て、各国産業のGSCでそれと同時に生み出されているGDP創出とのバランスを探索しました。具体的に、世界164ヵ国における産業のGSCが、当該GSCに含まれる各国で誘発する正・負影響の絶対量、および各国での当該影響の貢献度(=相対量)の2つのスケールに基づく視点から両影響のバランスを統合的に評価しました。図は各国GSCにおける正・負の影響をそれぞれ横軸・縦軸に示しており、結果から各国産業GSCの間で両影響のバランスには大きな差があることが明らかとなり、創出しているGDPに対して多くの淡水資源が消費されている=非効率的なバランスを有するGSCが特定されました。更に本研究では非効率的グループに属するGSCとしてアメリカ産業GSC・エジプト産業GSCを取り上げ、当該GSCにおけるどの原料調達にどれほどの非効率性があるのかを詳細に要因分解しながら、各GSCでの効率性改善に向けて重要となる要素を示唆しました。
※ 本研究成果は下記論文で公開されています。
Maeno et al. (2026) J. Ind. Ecol. 30, 1341–1353.
https://doi.org/10.1007/s44498-026-00091-3

図 各国産業のGSCにおけるGDP創出と淡水資源消費のバランス
横軸が当該GSCに含まれる各国での貢献度で加重されたGDP創出の総和、縦軸が同淡水資源消費の総和(両軸とも全サンプルの最大値により0~1で基準化)を示し、原点と各点を結ぶ直線の傾きは当該GSCにおける両影響のバランスを示しています(図中の青線は全サンプルにおける傾きの中央値)。
【成果の意義・今後の展開】
本研究成果は、産業活動がGSC上で誘発する便益を考慮する場合、当該GSCにおける負の影響への適切な対応方針が変化し得ることを示すものであり、産業のGSCにおける持続可能性評価において負の側面だけでなく正の側面もその評価軸に加えることの重要性を強調するものです。今後は多様な環境影響領域を包括した多方向のバランスを探索する発展的な実証分析を展開し、産業界における持続可能なGSC構築戦略の策定に更に貢献していきたいと考えています。
※本研究成果は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(25K16657、25H01208)による支援を受けたものです。
2026年10月21日

