詳細リスク評価書シリーズ11 アセトアルデヒド:概要
アセトアルデヒドは、主に酢酸エチルやペンタエリスリトールなどの化学物質の製造原料として用いられており、防腐剤や防かび剤、写真現像用試薬としても使用されており、生産や使用に伴って排出されるだけでなく、樹脂等の製造・加工過程において副生成されたり、自動車の走行、生物の呼吸、喫煙などによって排出されたり、大気中での光化学反応によって二次生成される。有害性については、ヒトについての証拠は定かではないものの、動物試験では発がん性を有することが分かっており、国際がん研究機(IARC)は「グループ2B(おそらくヒトに対する発がん性がある物質、Probable Human Carcinogen)」に分類している。その有害性などから、大気汚染防止法の有害大気汚染物質の優先取組物質に指定されている。また、臭気が強いことから、悪臭防止法の規制対象ともなっている。
空気中のアセトアルデヒド濃度は、大気中濃度よりも室内濃度の方が高いことが知られており、2002年1月に厚生労働省のシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会は、室内濃度指針値を48 μg/m3もしくは0.03 ppmと定めた。国土交通省による築1年以内の新築住宅を対象とした室内空気中の化学物質実態調査では、約10%の住宅で厚生労働省の指針値を超過しており、測定された6物質の中で最も高い超過率であった。国土交通省は、2003年4月にアセトアルデヒドをシックハウス症候群の原因として、住宅性能表示制度の測定対象物質に指定したが、世界保健機関(WHO)が室内濃度指針値を0.03 ppm(54 μg/m3(25 ℃、1気圧で換算))から0.17 ppm(310 μg/m3(25 ℃、1気圧で換算))に訂正する動きがあることを根拠に、消費者や生産者の混乱を避けるため、2004年3月に住宅性能表示制度の測定対象物質からアセトアルデヒドを除外した。厚生労働省は、WHOとは別個の評価を行い設定した値であるとして、室内濃度指針値を変更しない方針である。室内におけるアセトアルデヒドの発生源は明確には分かっておらず、対策の提案が困難だという現状もある。
本書では、アセトアルデヒドによるヒト健康影響および生態影響を対象としたリスク評価を行った。リスク評価の目的は、アセトアルデヒドへの暴露によるヒト健康リスクおよび生態リスクの現状をできる限り定量的に把握し、排出削減対策の必要性を検討することである。また、大気中および室内へのアセトアルデヒド発生源の寄与を見積もり、対策の効果等についても検討することとした。
暴露評価は、成人を対象とし、年齢・性別は区別せずに1群として扱うこととした。吸入暴露については、生活スタイル(在宅時間)の違いから、就業者および学生、主婦および非就業者の2群に分けた評価も行った。有害性評価では、有害性に関する既往の研究を整理して詳細に検討した結果(詳細は第Ⅷ章)、リスクの判定を行うには情報が不足していることから経口暴露についての評価は行わなかった。体内でのアセトアルデヒド代謝能力は、遺伝子多型の違いから人によって大きく異なることが知られているが、遺伝子多型別の影響についての情報が不十分であることから、遺伝子多型で集団を区別したリスク評価は行わなかった。ただし、アセトアルデヒドに関する知見の集積のために、遺伝子多型別の代謝能力の違いや各遺伝子多型の人口比などの情報に関しては整理した。労働環境における暴露や故意の摂取(飲酒・喫煙)による暴露についてもリスク評価の対象外とした。
アセトアルデヒド 詳細リスク評価書は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託のプロジェクト「化学物質のリスク評価及び リスク評価手法の開発」のテーマ「リスク評価、リスク評価手法の開発及び管理対策の削減効果分析」の研究成果である。
評価書の全文は、「詳細リスク評価書シリーズ 11 アセトアルデヒド」(丸善株式会社)として2007年7月に刊行されている。 (ここをクリック)