埋もれてしまった報道情報を知りたい【産業保安インサイド 第11回】by 若倉正英

さんぽコラム 産業保安インサイド 第11回/全15回
埋もれてしまった報道情報を知りたい
若倉正英

投稿日:2011年12月28日|更新日:2017年06月15日 10時00分

 2011年3月11日の安全の崩壊から9ヶ月を過ぎても,宮城,福島を中心に多くの苦しみがあふれている。安全を業としながら,被災した人たちの役に立つことができず,どうすればよかったのかの結論も得られていないが,”安全に関わるものの役割”を考え続けることが重要だと思っている。

保安行政に直接携わっていない我々にとって,マスコミが発信する事故情報は速報性,網羅性の両面からきわめて貴重である。幸い新聞やテレビなどの情報を一括検索できるサイトが増え,情報の収集がずいぶん楽になった。昨年までと同じキーワードで2011年の化学事故を検索すると,大震災以後半年以上にわたって大きな事故を見つけられなかった。記者が足で集めた貴重な情報も,新聞のスペースは限られており,デスク(編集長)が取捨選択しているそうだ。大震災に関して載せるべき情報は膨大で,どれほどスペースがあっても足りない状況であったことは理解できる。また,事故のようなマイナス情報をあまり流したくないという気持ちも働いたのかもしれない。事故情報はしっかり分析し解きほぐすことによって,安全を守り,進化させるための貴重な資源となる。大災害時という特殊な事情ということではなく,せっかく集められながら日々捨てられている,情報の有効利用を考える必要があるのではないだろうか。

また,新聞,雑誌検索では和訳された国外の事故情報も入手可能になりつつある。気になるのは中国や韓国,タイなどアジアで産業が急速に発展している国の事故の多さである。中国とタイの2011年に起きた事故例をあげてみると,花火や酸化剤など高エネルギー物質や反応性物質など,かつて我が国でも多発し,徐々に克服しつつある種類の事故が多いように思われる。RISCADの活用も含め,周辺の国々への安全面の支援の仕組みをつくりたいものである。

2011年
中国での産業火災・爆発の例
2月8日 吉林省の爆竹工場で爆発,2人死亡
4月15日 大慶の化学工場で爆発事故,9人死亡
8月18日 湖北省中国で花火工場爆発,住民多数生き埋め
11月2日 山東省のメラミン製造工場で爆発,14人死亡
11月25日 広州市の化学工場の酸化剤倉庫で爆発火災,周辺住民6千人避難

タイでの産業火災・爆発の例
1月13日 花火工場で爆発、3人が死亡
3月24日 花火工場で爆発、多数の死傷者
6月16日 プラスチック成形工場全焼
同じ頃にプラスチックリサイクル工場でも大爆発
7月19日 パームオイルオイルタンクが爆発、1人が重傷

※このコラムは2009-2013年にリレーショナル化学災害データベース(RISCAD)サイトにて掲載されたコラムを再掲したものです(コラム内の情報は掲載当時のものです)。

さんぽコラム 産業保安インサイド 全15回

第1回 「化学安全と難波先生」
第2回 「産業における安全文化」
第3回 「災害報道と原因の探求」
第4回 「化学安全における経営層の役割」
第5回 「えっ!しらないの?」
第6回 「事故事例は役に立つのか?」
第7回 「改善は安全に」
第8回 「未曾有の大災害 マスコミ報道と自分たちの役割を考える」
第9回 「震災で考えたこと:事故からは成功体験も学びたい」
第10回 「モラルはなぜ生まれたのか」
▶第11回 「埋もれてしまった報道情報を知りたい」
第12回 「災害の記憶をどう語り継げばよいのだろう」
第13回 「ほめるか しかるか」
第14回 「社長と安全」
第15回 「炭鉱事故と救護隊」

若倉 正英 / Masahide WAKAKURA

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 客員研究員
安全工学会保安力向上センター・センター長

産総研での事故分析や保安力の評価などに従事。モットーは、”遊びと仕事の両立”。