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  • VOC排出削減による地表オゾン低減効果の地域性
  • VOC排出削減による地表オゾン低減効果の地域性

    井上和也(環境暴露モデリンググループ)

    【背景・経緯】

    地表付近にあるオゾンは濃度レベルによっては、ヒトや農作物に有害な影響を与えることが知られています。そのため大気環境基準値が制定されていますが、今でもほとんどの測定局で達成されておらず、その低減は喫緊の課題となっています。オゾンはNOx(窒素酸化物)、VOC(揮発性有機化合物)などの排出物質から複雑な反応過程を経て大気中で生成されるため、これら原因物質に対する排出削減対策は2006年度に施行されたVOC排出抑制度をはじめ数々実施されてきました。ところが、肝心のオゾン濃度は現時点においても地域によっては期待されるほどの減少効果が得られておらず、より適切な施策を策定するために、各原因物質の排出削減によるオゾン濃度低減効果の地域依存性を明らかにすることが求められています。

     

    【2019年度の取組みと成果】

    本研究では、原因物質のひとつであるVOCの排出削減によるオゾン低減効果の地域依存性について、原因物質の排出・複雑な大気中反応・各物質の輸送過程を計算機内で再現する大気化学輸送モデル(ADMER-PRO)を用いて検討しました。実測で得られるオゾン濃度の経年変化には上記種々要因による変化が含まれているため、VOC排出削減の効果のみを抽出することはできませんが、大気化学輸送モデルなら、VOCの排出量のみを削減した数値的な実験を行うことによりそれが可能となります。計算結果の一例を示した下図によりますと、VOC排出量を同じ量だけ削減したとしても、東京湾沿岸部で削減するのと関東北部で削減するのとではオゾン濃度を低減させる効果が全く異なることがわかります。これは地域特性に応じた対策の必要性を示唆しています。本研究は国際誌として出版されました(Inoue et al., 2019; https://doi.org/10.1007/s11869-019-00720-w)。

     

    【成果の意義・今後の展開】

    今後はもう一つの前駆物質であるNOxについて同様の解析を行ったうえ、国の委員会等における研究成果の活用を通じて、オゾン濃度低減のための今後の適切な排出削減対策の策定、ひいては、健康な社会の実現に向けて貢献したいと考えています。

     

    図 VOC排出削減による地表オゾン濃度低減効率地理分布の推定結果

    20 kmメッシュごとにそのメッシュ内でのみVOCを年間1トン削減した時に関東全体のオゾン濃度(夏季の日中8時間値)が平均値でどれだけ低減されるかを計算し、その地理分布を示した。

    2020年07月13日