世界の様々な河川流域に適用できる化学物質の暴露評価モデル
石川百合子(環境暴露モデリンググループ)
【背景・経緯】
近年、SDGsやESGの観点から世界の多くの企業で環境リスク評価の必要性が高まっています。河川流域では、生活排水や産業排水の流入による化学物質の環境影響を評価・管理することが求められていますが、化学物質のモニタリング情報が不足しているため、リスク評価を進めることが難しい状況です。産総研では、河川流域での化学物質の暴露評価を目的とした非定常解析モデルの開発研究に取り組み、誰もがパソコンで流域内の化学物質濃度を推定できる産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)を公開し、バージョンアップを重ねてきました。これまで、日本石鹸洗剤工業会や関連企業などで活用されています。
【2019年度の取組みと成果】
AIST-SHANEL Ver.3.0では、沖縄県を除く全国の河川流域で250mメッシュ単位、1日ごとの化学物質濃度を推定できます。2019年度はモデルの活用拡大を目的として、様々な河川流域での化学物質の暴露評価の適用事例について論文発表を行いました。ケーススタディとして、日本の下水道普及率が高い都市河川(多摩川)、下水道普及率の低い都市河川(日光川)、下水道普及率の低い田園河川(野根川)を対象とし、代表的な界面活性剤の1つである直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩(LAS)の暴露濃度分布を推定し、排出量や河川流量の観点から評価しました。さらに、LASからアルコールエトキシレート(AE)へ代替した場合の生態リスクの評価も行い、化学物質のリスクだけでなく対策効果も評価できることをアピールしました。AIST-SHANELの基本プログラムは人口や土地利用、気象などの流域データを設定すればどの地域でも計算できますので、世界の様々な河川流域に適用できます。
【成果の意義・今後の展開】
本モデルは国内外の企業や自治体での活用が見込まれ、世界の化学物質管理を促進するものです。また、日常的な排出だけでなく、災害や事故時の化学物質のリスク管理にも活用できます。現在、集中豪雨時の化学物質の流出拡散予測や底質リスク評価に向けたモデル改良を行っています。
引用文献)Yuriko Ishikawa, Michihiro Murata and Tomoya Kawaguchi (2019), Globally applicable water quality simulation model for river basin chemical risk assessment, Journal of Cleaner Production, 239, 118027, 1-15.
図 AIST-SHANELを用いた流域特性の異なる水系でのLAS濃度分布図
(モデルでは流域内の全てのメッシュに河川水、河川底泥、土壌、流域内水路、大気の環境媒体を設定し、河川水および底泥の濃度を推定しています。暴露評価では河川が存在するメッシュの推定結果を用います。)
2020年07月13日