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  • 9万気圧までのポリエチレンテレフタラートの衝撃圧縮曲線
  • 9万気圧までのポリエチレンテレフタラートの衝撃圧縮曲線

    若林邦彦(爆発安全研究グループ)

    【背景・経緯】

    火薬類に衝撃を加えると爆発する現象(衝撃起爆現象)は良く知られていますが、なぜ衝撃のみによって起爆するのかといった基本的な問題は良くわかっていません。我々は、火薬類の安全な取り扱いや起爆感度の制御方法等の開発を目指し、衝撃起爆機構に関する研究を実施しています。火薬類の起爆現象は高速かつ不可逆な単発破壊現象であるため、これまでに、現象と計測をナノ秒レベルで制御できるパルスレーザーによる衝撃波発生装置を開発してきました。2018年度までに標準物質を用いた状態方程式の検証実験を実施し、実験データの精度の検証などを実施してきました。

     

    【2019年度の取組みと成果】

    衝撃起爆現象は衝撃波によって火薬類が圧縮される過程や圧縮状態、圧力開放過程などに依存するため、火薬類の衝撃起爆機構を研究するうえで、衝撃圧縮下における状態方程式を明らかにすることは極めて重要です。2019年度は手法の有効性を検証するための予備的な実験として、ペンスリット爆薬と類似なサイズ(数ミリメートル、数百ミクロン厚さ)・透明性を有する不活性物質に着目し、状態方程式測定を行いました。試料としてプラスチック材料の一種であるポリエチレンテレフタラート(PET)を用いました。レーザー速度干渉計を用いることで、非接触かつナノ秒程度の時間分解能で衝撃圧縮された物質の速度を測定することができるようになりました。その結果、以下の知見が得られました。
    1) 9万気圧までのPETの衝撃圧縮曲線(圧力-粒子速度の関係)を明らかにしました(図)。
    2)衝撃波速度と粒子速度は非線形関係であることが分かりました。これはプラスチック材料に共通する圧縮性の違いに起因する可能性が考えられます。

     

    【成果の意義・今後の展開】

    この成果は、本手法を用いることで微小な透明物質の状態方程式測定が可能であることを示したものです。本手法は他の透明物質にも容易に適用可能でありばかりでなく、数mg程度の微小試料の計測も可能とするものであることから、火薬類の爆発反応実験をテーブルトップで安全に実施できるなど新しい火薬研究手法に発展することが期待されます。今後は状態方程式が不明な火薬類や他の物質に適用し未知の状態方程式を明らかにすることや反応過程に関する研究に取り組みます。

     

    図 PETの衝撃圧縮曲線(■:本実験結果、○:文献データ(The BOEING company, number D2-125304-1(1969).))
    [若林邦彦、2019年度衝撃波シンポジウム講演論文集]

    2020年07月13日