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  • エネルギー技術普及加速方策の検討
  • エネルギー技術普及加速方策の検討

    櫻井啓一郎(社会とLCA研究グループ)

    【背景・経緯】

    気候変動の影響が世界的に顕在化する中、排出コストの増大や災害のリスクを十分に抑制するためには、低排出なエネルギー技術の普及加速が急務となっています。一方で再生可能エネルギーや蓄電池等の技術のコストは急速に低減し、技術の開発を進めるだけでなく、新たに開発された技術を速やかに社会に組み込んでいくための知見の重要性が増しています。技術自体が既に利用可能でも、普及させる際は、人材教育、融資、法制度、産業構成、地域の風土・文化等、技術以外の様々な要因が普及速度に影響します。様々な技術の開発が進んだ昨今、トラブルやコストを回避し、地域雇用等の便益を最大化し、持続的な社会への変革をスムーズに進めるための研究が求められています。

     

    【2019年度の取組みと成果】

    太陽光発電や電気自動車の普及障壁に関する調査を行いました。関係者からの聞き取り調査の結果、普及の障壁となっている要因の一つとして、これらの技術の性能や活用法について現状にそぐわぬ主張が流布されており、合理性に欠ける意思決定を誘発している例が複数確認されました。メディア等を通じ、科学的見地から一般論として適切と思われる情報を提供いたしました。さらに世界的な太陽光発電の普及加速の可能性と期待される効果、その際に取り除くべき障壁等について世界中の公的研究機関・企業・行政機関等の専門家と共著でScience誌に論文を投稿し、掲載されました(図)。低炭素化のためには電力の低炭素化と並行して、電気自動車の普及や工業プロセスの電化等、現在は化石燃料を用いている分野での電化を進める必要があります。これに伴い、太陽光発電が役立つ場面もさらに増えることが見込まれます。

     

    【成果の意義・今後の展開】

    これらの成果は、低炭素化技術に関する誤解を抑制し、注力すべき事項を明らかにすることで、低炭素化をよりスムーズに進める助けになることが期待されます。Science誌の投稿論文は掲載から1年足らずで既に40以上の学術文献に引用されており、2017年の前回論文(200以上の文献で被引用)同様に広く活用されることが期待されます。今後も、様々な関連技術を組み合わせながら低炭素化を進めるにあたり、なるべくスムーズに技術の普及が進むように助力してまいります。

     

    図 運輸部門等における電化の加速による、太陽光発電の普及余地の拡大イメージ

    低炭素化は個々の技術だけで考えるものではなく、複数の技術を組み合わせ、異分野同士で連携させることで、よりスムーズに進められる。

    2020年07月15日