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  • ジャカルタでの再帰反射フィルムによる熱環境改善と省エネ効果シミュレーション
  • ジャカルタでの再帰反射フィルムによる熱環境改善と省エネ効果シミュレーション

    玄地裕(安全科学研究部門)

    • 山口和貴(東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所)
    • 井原智彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
    • 髙根雄也(産総研 環境創成研究部門)

    【背景・経緯】
    2050年には、地球の人口の約7割が都市部に集中することが予想され、SDGs11番目の目標に「住み続けられるまちづくり」が掲げられているように、持続可能な都市開発が世界的に大きな課題の1つとなっています。特に多くが熱帯亜熱帯に位置するアジアの大都市では、人口増や都市化によるヒートアイランド現象と地球温暖化などの気温上昇によって通年での冷房エネルギー消費増が見込まれ、対策の実装が急がれています。私たちは、以前から東京など日本の大都市を対象に、都市スケールの気温と空調エネルギー消費の連成シミュレーションモデル(CM-BEM)の開発を行っており、そのモデルをアジアの大都市にも適用して、対策技術導入による都市熱環境改善効果と省エネ効果について検討を行っています。

    【2019年度の取組みと成果】
    近年、日射に含まれる熱線を概ね太陽方向に再帰反射させるフィルム(RRF)が実用化され、建物の窓面に貼ることで下方への反射低減による都市熱環境改善効果が期待されています。そこで私たちは開発してきたCM-BEMに、鏡面・再帰反射を考慮できる放射伝熱解析を組込み、RRFによる熱環境改善効果と省エネ効果を検討しました。東南アジア最大都市のジャカルタを対象に、2050年代の8月の気象条件(IPCC低位安定化シナリオRCP2.6)を想定して計算を行いました。建物用途・構造、窓面積割合、空調普及率等を与え、単板ガラス(SFG)を基準ケースとして、省エネに優れるが鏡面反射が多い一般遮熱フィルム(HSF)と再帰反射フィルム(RRF)を対策ケースとして比較しました。その結果、HSFは省エネには寄与するが熱環境を悪化させる一方、RRFはHSF以上の省エネ効果かつ熱環境への悪影響はないという結果でした。また床面積当たりの省エネ効果は郊外の低層住宅(約3%)でも業務街区(約4%)とほぼ同等であり、RRFは住宅街区でも省エネ対策となることが示唆されました。

    【成果の意義・今後の展開】
    この研究により、定量的に再帰反射フィルムが都市熱環境対策と省エネ対策になりうる可能性が示され、通年冷房を必要とする熱帯/亜熱帯の都市で、比較的施工が容易な都市スケールでのヒートアイランドと省エネ対策の選択肢が一つ増えたことは大きな意義です。ヒートアイランド対策は、街の用途や形、気候帯等の要因によって有効な対策が異なるため、今後も多様な都市や街区で対策検討を行い、熱環境の面から持続可能な都市への提言につながる知見を積み重ねていく予定です。

     

    図 SFGを基準としたHSFとRRF導入による熱環境(平均放射温度:MRT)の時刻別変化

    事務所街区では、HSFでは午前9時頃と15時頃にそれぞれ1.5℃、1.1℃程度のMRT上昇が起きるのに対してRRFではほぼMRT上昇はなく、熱環境への悪影響は見られない。

    2020年09月15日