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  • 世界の流域における水資源利用の持続可能性とvirtual water tradeの影響
  • 世界の流域における水資源利用の持続可能性とvirtual water tradeの影響

    本下晶晴(持続可能システム評価研究グループ)

    • Stephan Pfister(ETH Zurich)
    • Matthias Finkbeiner(Technische Universitaet Berlin)

    【背景・経緯】
    持続的な水資源利用は国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標の1つとしても掲げられ、世界全体での取り組みが求められています。様々な環境問題に関わる持続可能性を表す概念として提唱されているプラネタリー・バウンダリでは、現在の水資源利用量は地球全体で見たときには持続可能な許容範囲(環境容量)に収まっているとされています。一方で、水資源は地球上に不均一に存在し、その需要も地域により異なるため、地域レベルでの持続可能性の評価も重要となります。また、ある地域における水資源を利用することで供給される財は貿易を通じて世界で需要されており、いわゆる仮想水貿易(virtual water trade)は水資源が消費されている地域における水資源利用の持続可能性に関わっています。

    【成果】
    今回、世界の流域における現在の水資源利用の持続可能性を評価するとともに、virtual water tradeがこうした各流域における水資源利用の持続可能性に与える影響を分析しました。
    世界の水資源消費量の約80%を占める流域において、環境容量を超過した水資源消費が起こっており、その超過の割合としては平均で約24%であることが分かりました(図1)。環境容量超過の要因を詳しく分析すると、先進国などでの贅沢な水利用のための需要だけでなく、最低限必要とされる食料や生活用水を充足するため必要不可欠な水需要が、環境容量超過量の約60%を占めていました。Virtual water tradeを通じて水消費に関わる環境容量超過量は低減されていますが、低減効果は世界全体の環境容量超過量に対して約5%にとどまり、貿易だけでなく各流域における水資源利用効率の向上など抜本的な対策が不可欠であることも明らかとなりました。本成果は下記論文で公表されています。

    Motoshita et al. (2020) Environ. Sci Technol. 54(14), 9083-9094:
    https://doi.org/10.1021/acs.est.0c01544


    図1 各流域における環境容量を超過した水資源消費量※
    (出典:Motoshita et al. (2020) Environ. Sci Technol. 54(14), 9083-9094)
    ※水資源消費量が環境容量を超過している流域が赤で示されており、色が濃いほど環境容量を超過した水消費量が多いことを示す。

    【成果の意義・今後の展開】
    世界全体では許容範囲内でも流域レベルでは持続的でない水資源利用も多く存在することが明らかになりました。現在進めている分析では日本のサプライチェーン全体で約6割の水消費量を海外に依存していることも分かっており、日本の産業活動と世界の流域の水資源利用の持続可能性は深く関わっています。今回の成果を基に、世界のサプライチェーンの中での水資源利用リスクを分析できるプラットフォームを開発し、日本の産業のウォーターセキュリティの向上に貢献します。

    ※ 本研究の一部は科研費 若手研究(A)(15H05342)および国際共同研究強化(B)(18KK0303)により行われたものです。ここに謝意を表します。

    2021年09月16日