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  • 家庭用電気製品含有のプラスチック難燃剤のリスクに関する社会受容性調査
  • 家庭用電気製品含有のプラスチック難燃剤のリスクに関する社会受容性調査

    恒見 清孝(排出暴露解析グループ)

    【背景・経緯】
    これまで産総研では、家庭用電気製品中のプラスチックに使用する難燃剤について、リスク評価やリスクトレードオフ研究などを行ってきました。これらの客観的なリスク定量化を行う自然科学アプローチに対して、人文・社会科学へ拡張するためには、個人差や価値を研究対象に取り込み、社会的な解決をめざす必要があります。そこで、家電製品などのプラスチック部材に使用される難燃剤を対象に、事故のリスクと化学物質リスクに関する製品選択のアンケート調査を行いました。難燃剤を使用したときの「健康」「環境」の長期間のリスクと、難燃剤を使用しない場合の「安全」「経済」の短期間のリスクに着目して、定常的リスクと突発的リスクの受容性とその傾向を把握しました。

    【成果】
    主観的評価法(AHP; Analytic Hierarchy Process)は、まず、それぞれの評価基準のどちらをどれくらい重要視するかの一対比較をし、次に、各評価基準において、代替案のどちらがどの程度優れているかの一対比較を行います。そして、各代替案の重要度を計算して意思決定を図る手法です。このAHPを用いて、健康、環境、安全、経済の4つの評価基準と、難燃剤を使用するケース、難燃剤を使用しないケースの代替案から構成される図1の左に示す階層構造を設定して、一般市民を対象に、インターネットアンケートによる調査(2018年3月16日~20日)を実施しました。その際に、化学物質使用による安全面での効果を動画(BSEF Japan, BSEF Television fire safety video, https://www.bsef-japan.com)で提示してリスク受容の変化を把握しました。解析した結果を図1の右に示します。動画視聴前は、難燃剤あり/なしの製品で同等の重要度でしたが、「難燃剤あり」製品をより重視した被験者は安全を重視、「難燃剤なし」製品をより重視した被験者は健康と環境を重視していました。動画視聴後は、難燃剤あり製品の重要度が増加しました。

    図1 難燃剤に関する製品選択における階層構造(左)と、製品選択の重要度の結果(右、左側が動画視聴前、右側が動画視聴後のそれぞれの結果)

    【成果の意義・今後の展開】
    事故のリスクと化学物質リスクに関する製品選択のアンケート調査を行い、一般の人の心理面の定量化を試みたところに意義があります。今後の課題として、難燃剤の効果を主張する動画とは別に、難燃剤の有害性を主張する動画等も使用して、対立する主張による受容性の違いを検討します。安全と健康のリスクトレードオフの定量評価の枠組みを検討するとともに、動画などの媒体も考慮したリスクコミュニケーションの方法を検討できればと考えています。

    * Tsunemi, K.; Kawamoto, A.; Ono, K. Consumer Preference between Fire Risk and Chemical Risk for Home Appliances Containing Flame Retardants in Plastic Parts. Safety 2019, 5, 47. https://doi.org/10.3390/safety5030047

    2021年09月16日