AIST-MeRAM:化学物質の生態リスク評価の効率化・定型化・標準化支援
林 彬勒(排出暴露解析グループ)
【背景・経緯】
「すべての化学物質のリスクが許容レベルで管理しながら使う」という世界の法規制対応において、産学官各界は様々な悩みと課題を抱えています。こうした悩みと課題の解決には、科学的知見に基づく実用的な簡易リスク評価管理ツールの提供が望まれていますが、こうしたツールは存在しません。既存ツールの多くは研究用や規制機関の評価用であり、事業者のニーズに合致したユーザーフレンドリーなインターフェースを有する汎用性の高いツールが開発された例はありません(Linら2020)。我々は2010年の開発初期段階から日本化学工業協会の要望を聞き、現場の負担軽減と評価の効率化・定型化の支援をめざして、自主管理や化審法などの法規制対応の実務的なリスク評価ツールを開発してきました。
【成果】
2020年度までは2017年に一般公開した日本語版と英語版に対して、以下に示した主な機能改善と搭載データベース強化を行いました。
- 化審法の用途分類と排出係数を最新版(平成30年8月)に更新
- 化審法準拠評価機能についての検証およびそのための改修
- リスク管理オプション提示機能を追加し、最新の知見で更新
- 有害性データが欠如した場合、環境省のQSARモデルであるKATEシステムに連結・利用
- 各種データソースから収集したデータ信頼性標識(化審法信頼性ランク、環境省初期評価信頼性標識、環境省農薬基準信頼性標識、クリミッシュコード、米国農薬基準信頼性標識)追加
- 種の感受性分布(SSD)評価用毒性データ選択アルゴリズムの検証・改修
また、国内外の関係者に広く認知してもらうため、成果を英語論文(Linら2020)としてまとめ、Chemosphere誌に掲載されました(図1)。
図1 生態リスク評価に必要なデータと手法を完備したAIST-MeRAMの特徴と概要
【成果の意義・今後の展開】
AIST-MeRAMはデータと評価手法を完備した国内外に知られる化学物質生態リスク評価管理ツール(図1)です。しかしながら、情報セキュリティ意識がますます高まる近年、一般公開されているスタンドアロン版(日本語版と英語版)のダウンロード数が劇的に減っています。そのため、現在、インストール不要なウェブ版(英語版)を開発中で、2021年度末までに公開する予定です。
* Bin-Le Lin, Yaobin Meng, M. Kamo, W. Naito (2020): An All-in-one Tool for Multipurpose Ecological Risk Assessment and Management (MeRAM) of Chemical Substances in Aquatic Environment, Chemosphere, 268, 1-11, 2020/10.
2021年09月16日