金属資源の安定確保に向けた日本の希少性メタルフットプリントの分析
横井崚佑(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
日本は国内の最終需要を満たすために、必要な金属資源の多くを他国における金属採掘に依存しています。しかし採掘国では採掘活動の逼迫によって採掘活動が中止する可能性が指摘されています。採掘活動の逼迫状況は国によって異なるため、安定的に金属資源を調達するためには、採掘活動が比較的逼迫していない国 (金属資源の希少性の低い国) における採掘活動に依存することが望ましいと言えます。
金属資源の調達に関わるリスクの現状を理解し、その改善に向けた議論を行うためには、消費国の最終需要から採掘国における金属の採掘活動までのサプライチェーンを遡って把握した上で、各採掘国における採掘活動の逼迫度を評価することが必要ですが、今までそのような研究は行われていませんでした。
【成果】
本研究では鉄および銅、ニッケルの3金属を対象に、日本の金属資源調達におけるリスクを評価するための指標として、日本の最終需要がサプライチェーンを通じて採掘国に誘発する金属採掘量と、その採掘国における採掘活動の逼迫度を合わせて算定される希少性メタルフットプリントを2005年と2011年に関して推計しました。
推計の結果、日本の鉄と銅の調達は比較的逼迫度の低い国における採掘活動に依存していましたが、その一方でニッケルの調達に関しては採掘活動が逼迫しているフィリピンへの依存が大きいことが明らかになりました (図1)。さらに調達リスクに対して影響の大きい要因を要因分解分析によって分析した結果、採掘国における年間採掘量や埋蔵量といった採掘国由来の要因が調達リスクに大きく影響を及ぼしたことに加えて、調達先の国の構成を変えることで調達リスクをより下げられる余地があることが明らかになりました。
なお本成果は、査読付き論文として国際誌 (Yokoi et al., iScience, 24, 102025, 2021) にて公開しています。
図 2011年における日本の金属調達先とその国における採掘活動の逼迫度
横軸が日本の誘発採掘量 (調達の依存度) を、縦軸が採掘活動の逼迫度を表し、それらの積が日本の調達リスク (希少性メタルフットプリント) として各プロットの大きさで表されています。
【成果の意義・今後の展開】
本成果は、持続的な金属利用のための資源調達リスク管理に向けて、採掘活動の逼迫度という観点からの状況の把握とリスク軽減に向けた有効な対策の議論への貢献が期待されます。今後は分析の対象年度や対象金属、考慮するリスク要因の拡張を行うとともに、今後調達リスクの増加が予期される金属資源の持続的な利用を支援できるよう、金属資源の将来需要予測を組み合わせた予期的な調達リスクの分析への研究の展開を検討しています。
※ 本研究の一部は、JSPS科研費20K20014の助成を受けたものです。
2021年09月16日