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  • 国内に生息するDaphnia属ミジンコの繁殖に対するニッケルの生態影響調査
  • 国内に生息するDaphnia属ミジンコの繁殖に対するニッケルの生態影響調査

    眞野浩行(リスク評価戦略グループ)

    • 篠原直秀(リスク評価戦略グループ)
    • 内藤航(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
    ニッケルは、水生生物の保全に係る環境基準値のベースとなる水質目標値が検討されている化学物質の1つです。水質目標値は、水生生物の個体群存続への影響防止を目的として、毒性試験によって得られた、国内に生息する水生生物や化学物質の生態影響評価に使用される試験生物に対して慢性影響を引き起こさない化学物質の濃度(以降、無影響濃度)をもとに設定されます。試行的に算出された淡水域でのニッケルの水質目標値は4μg/Lで、この値はDaphnia属ミジンコ種への無影響濃度を幾何平均して求めた値(これをDaphnia属の無影響導出値と呼びます)をもとに算出されており、具体的には、オオミジンコ(Daphnia magna)(図)の繁殖へのニッケルの無影響濃度の2データ(2.5μg/L、6.9μg/L)をもとに算出されていました。

    【成果】
    Daphnia属のミジンコは国内に複数種生息していますが、これらの種へのニッケルの無影響濃度はこれまでに報告されておらず、Daphnia属の無影響導出値に反映されていませんでした。そこで、国内に生息するDaphnia属ミジンコ種へのニッケルの無影響濃度がDaphnia属の無影響導出値に影響するかどうかを検証することを目的として、国内に生息するDaphnia属ミジンコ3種(カブトミジンコ(D. galeata)、ミジンコ(D. pulex)およびタイリクミジンコ(D. similis))の繁殖へのニッケルの無影響濃度を、毒性試験を実施して調査しました(図)。試験結果から求めたカブトミジンコ、ミジンコおよびタイリクミジンコの繁殖に対する無影響濃度は、それぞれ、23、26、4.6μg/Lでした。オオミジンコの2データの幾何平均値と、本研究で求めたミジンコ3種のデータをもとにDaphnia属の無影響導出値を再計算すると、その値は10μg/Lとなり、オオミジンコの繁殖への無影響濃度の2データをもとに算出したDaphnia属の無影響導出値よりも2.5倍高くなりました。これらの成果は以下の論文で公表されています。

    Mano et al. (2020) doi: https://doi.org/10.2965/jwet.20-083

    図 オオミジンコと本研究で調査したDaphnia属のミジンコ種

    【成果の意義・今後の展開】
    この結果は、国内に生息するDaphnia属ミジンコの繁殖に対するニッケルの無影響濃度は、Daphnia属の無影響導出値に影響するため、我が国において淡水域でのニッケルの水質目標値を設定する際には、国内に生息するDaphnia属ミジンコの繁殖に対するニッケルの無影響濃度を考慮する必要があることを示しています。本研究で得られたDaphnia属ミジンコ種の繁殖に対するニッケルの無影響濃度の値が淡水域でのニッケルの水質目標値の設定に活用されることが期待されます。

    ※ この研究は鉄鋼環境基金の研究助成及びニッケル生産者環境研究協会(NiPERA)の助成金により行われました。

    2021年09月16日