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  • 金属汚染を対象とした河川での生態影響調査において、どの生物グループを調査すべきか?
  • 金属汚染を対象とした河川での生態影響調査において、どの生物グループを調査すべきか?

    岩崎雄一(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
    河川などの水環境において、亜鉛や銅等の金属類がもたらす生態影響の管理は、国際的にも長年の懸念事項です。一般的に、その影響予測やリスク評価には室内毒性試験の結果が利用されますが、実際の環境下における生態影響を正確に見積もることは困難です。そのため、水生生物を対象とした野外調査を実施し、その結果に基づき、実環境で観察される生態影響を直接評価することが有益です。河川での生態影響評価において代表的な調査対象生物は、付着藻類、底生動物(水生昆虫などの底生の大型無脊椎動物)、魚類です。では、これら3つのうち、どの生物グループを金属の生態影響評価に用いれば良いのでしょうか。

    【成果】
    本研究では、1991年~2015年の間に、付着藻類、底生動物、魚類を対象に河川において金属の生態影響(個体群や群集レベルの応答)を調査した論文(約200件)を収集し、付着藻類や魚類に比べ、底生動物が最も頻繁に調査対象となっていたことを明らかにしました(全体の62%:下図)。また、3つの生物グループの指標間の相関は、多くの場合で高くなく(r < 0.7)、特定の生物グループの調査結果から、他のグループの指標の応答を推測することは容易ではないことが示唆されました。さらに、当該解析に用いることができた調査データは限られていたものの、底生動物指標(主に、底生動物の種数や個体数)が他のグループの指標と比べて、銅濃度などの金属汚染指標との相関が高い場合が多いことも明らかにできました。以上の結果は、河川において金属汚染による生態影響を検出・評価する上で(特に評価や保全の対象が決まっていない場合に)、底生動物を調査対象とすることが妥当な選択であることを示唆しています(Namba et al. 2020)。

    図:202件の研究で調査されていた生物学的グループ

    【成果の意義・今後の展開】
    私は、休廃止鉱山下流の河川において、底生動物を対象とした金属の生態影響評価をこれまで行ってきました。「どの生物を調査すればいいの?」という本研究で取り組んだ問いは、その中で生まれた素朴な疑問です。まだ課題はあるとはいえ、この問いに対して定量的かつ客観的な判断材料を提供できたことや当該成果が経済産業省の「休廃止鉱山の坑廃水が流入する河川における生態影響評価ガイダンス(案)」の中で引用されたことからも、思い入れのある成果になりました。

    引用文献
    Namba H., Iwasaki Y., Heino J., and Matsuda H. 2020. What to survey? A systematic review of the choice of biological groups in assessing ecological impacts of metals in running waters. Environmental Toxicology and Chemistry 39:1964–1972. 10.1002/etc.4810

    ※本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20185R01)により実施した。

    2021年09月16日