セルロースナノファイバーの呼吸器への影響
藤田克英(リスク評価戦略グループ)
【背景・経緯】
軽量で高強度、低熱膨張性等の特徴を有するセルロースナノファイバー(CNF)は、新材料として期待され、さまざまな用途への開発が進んでいます。その一方で、アスベストやカーボンナノチューブのように繊維状で超微細な特性を持つことから、呼吸器への影響が懸念されています。しかしながら、CNFはチキソ性や低吸光度等といった独自の物理化学特性や、微生物に汚染されやすい特徴をもつため、試料調製が難しく、吸器への中長期の影響評価を目的とした研究報告は国際的にもありません。このため、代表的な3種類のCNF(リン酸エステル化CNF、TEMPO酸化CNF、機械解繊CNF)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を対象に、炎症反応を評価項目とする90日間のラット気管内投与試験を実施しました。
【成果】
CNF分散液の調製や殺菌を行った後、気管内投与器具からの射出状態の確認や、投与後1週間でのラットの一般状態の観察から、気管内投与が可能なCNF濃度を決定しました。その後、3種類のCNFおよび1種類のMWCNTの分散液をラット気管内に単回投与し、投与後90日間の気管支肺胞洗浄液(BALF)中の細胞数や生化学検査、肺の病理観察および網羅的遺伝子発現解析を行いました。この結果、CNFの投与後の炎症の強さは、CNFの種類により異なりましたが、同濃度のMWCNTに比べて低いことが明らかになりました。また、CNFによる炎症は、経日的に減衰して投与後90日に回復し、持続的な炎症を引き起こすMWCNTとは異なることが分かりました。炎症の惹起や炎症反応の減衰以外の評価項目が新たに見いだされた場合、再考する必要がありますが、本研究はCNFの呼吸器への影響評価や安全管理に有用な試験結果であると考えます。なお、本研究結果は、CNFの安全性について保証するものではありません。
気管内投与試験によるCNFの呼吸器への影響評価
【成果の意義・今後の展開】
本研究結果は、”Pulmonary inflammation following intratracheal instillation of cellulose nanofibrils in rats: comparison with multi-walled carbon nanotubes”と題した研究論文にまとめ、Cellulose(発行元Springer)において2021年5月に発行されました(https://doi.org/10.1007/s10570-021-03943-2)。今後、CNFを取り扱う事業者の自主安全管理の支援や、CNF含有製品の開発や普及に役立つものと考えます。
※ 本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より委託された研究成果です(JPNP13006、JPNP20009)。
2021年09月16日