既存優良技術普及による省エネ・温暖化対策評価
歌川 学(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
気候変動の悪影響の抑制のため、脱炭素転換が求められています。日本も温室効果ガスを2030年46%削減(2013年比)、2050年排出実質ゼロを目標にしました。IPCC第6次評価報告書WG1報告(2021年8月)ではカーボンバジェットの評価が1.5度特別報告書(2018年)より小さくなり、世界で対策強化の議論も開始されています。そこで、今後の目標強化も含めた多くのシナリオ検討を行い、目標達成のための対策を合理的に選択して実行していくことが必要です。そのためには、全体を見て排出削減効果が大きいもの、費用対効果が高いものなどを、定量的評価に基づき計画的に取り組む必要があります。
【成果】
エネルギー起源CO2排出量について、国全体で2030年に国の温室効果ガス目標の46%削減以上の削減、2050年排出実質ゼロを実現することを念頭に、温暖化対策評価とその導入の際の結果評価を実施しました。結果評価においては活動量の将来推移も影響するため、改定前(2015年の経済産業省の長期エネルギー需給見通し)の国の計画の想定活動量とその延長、人口比漸減の場合など幾つかのケースを想定しました。
技術導入対策を想定し、既存技術の計画的な普及により2050年に90%以上の削減の技術的可能性が明らかになりました。残りの削減では新技術も用いて脱炭素転換を図ります。この割合の概要が明らかになりました。
図 日本全体の既存技術普及対策によるエネルギー起源CO2削減評価(直接排出)
BAU:対策なし、エネ転換:エネルギー転換部門の略で、火力発電所、製油所など
歌川学・堀尾正靱「90%以上のCO2削減を2050年までに確実に行うための日本のエネルギー・ミックスと消費構造移行シナリオの設計」,化学工学論文集, 46-4, 2020, pp.91〜107.
【成果の意義・今後の展開】
国内・各地・各主体で、対策技術の導入・普及を毎年計画的に実施することが脱炭素転換に有効であること、具体的には、既存技術の計画的な普及により2050年に90%以上の削減が可能であり、さらに一部新技術を用いて脱炭素転換を図ることができる技術的可能性が明らかになりました。また既存技術普及では費用対効果の高い対策を選ぶことができる可能性も示されました。この成果は国や自治体、各主体の計画策定やその重点の選択に寄与できます。但しそのためには企業・家庭も行政も専門的知見の活用が必要です。
今後は国レベルの分析に加え、地域の脱炭素転換にむけた温暖化対策技術導入評価の研究分析を予定しています。
※ 本研究は、科学研究費補助金基盤研究A「システム改革下における地域分散型のエネルギーシステムへの移行戦略に関する研究」、科学研究費補助金基盤研究C「太陽光・風力発電の大量連系と電力需給バランスを考慮したCO2削減効果の推計」により実施しました。
2021年11月30日