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  • TR 27877:2021 Statistical analysis for evaluating the precision of binary measurement methods and their results(2値の測定方法とその結果の精度評価のための統計的方法)の発行
  • TR 27877:2021 Statistical analysis for evaluating the precision of binary measurement methods and their results(2値の測定方法とその結果の精度評価のための統計的方法)の発行

    竹下潤一(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】

    ISO/TC69(統計的方法の適用)は統計に関する国際規格を作成する団体で、測定方法の統計的精度を求める方法を規定しているISO 5725などを開発しています。ISO 5725は測定結果が計量値であることを前提としていますが、世の中には有害影響の有/無、工業製品の合/否など、測定結果が2値データとなる測定方法も数多くあります。2値データの評価手法に対する需要は高く、TC34(食品)、TC147(水質)などの団体でも、2値データの評価に取り組みはじめています。TC69では2008年に2値データに関するTR(技術報告書)を作成することになりましたが、その当時の提案文章は各国の意見がまとまらず発行には至りませんでした。2016年より私がISO/TC69下のWG(作業グループ)で2値データの評価手法に関するTR作成のプロジェクトリーダーに就任し、TR 27877を執筆しました。

     

    【成果】

    本TRでは、2値データの測定方法に対する統計的精度評価手法として、現時点で提案され主流と思われているWilrich の方法(P.-Th. Wilrich, Accreditation Qual. Assur, 2010)、Gadrichの方法(Gadrich and Bashkansky, J. Stat. Plan. Inference. 2012)、及びLangtonの方法(S.D. Langton et al., Int. J. Food Microbiol. 2002)の3つを取り上げています。各方法についてその基礎となっている考え方・理論を概説するとともに、複数の同一実例を解析し各方法で提案されている精度指標を実際に算出しています。精度指標を算出する過程では途中の計算式をなるべく詳細に記載することで、これらの手法を実際に利用したい人向けにも平易な説明を心がけました。さらに、各方法で提案されている精度指標は相互に換算可能であることを理論的に証明しました。また、2値データとなる測定結果を全体として評価する統計量で、測定結果をまとめた混同行列から算出可能なもの(感度、特異度、F-measure、Kappa係数など)も取り上げ、その定義と意味を概説するとともに、複数の同一実例での計算結果を示しました。

    研究紹介_20211130_竹下潤一(リスク評価戦略)

    ISO/TR 27877:2021のウェブページ(https://www.iso.org/standard/71613.html)
    (このページより購入可能である。)

     

    【成果の意義・今後の展開】

    本TRを参照することで、2値データの統計的精度評価の既存手法を簡単に概観できます。また、必ずしも統計手法に明るくないユーザーであっても、手元のデータを用いて実際に精度評価を行うことができます。そのため本成果は、2値データの統計的精度評価手法の研究と利用を促進するものと考えられます。今後は、本TR執筆の過程で得られた知見を活かし、2値データや多値データの統計的精度評価手法の理論的改良に取り組むとともに、国内向けにJIS化の検討も行っていきます。

     

    2021年11月30日