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  • 産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)の推定精度評価 -多摩川におけるビスフェノールA を対象として-
  • 産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)の推定精度評価 -多摩川におけるビスフェノールA を対象として-

    石川百合子(環境暴露モデリンググループ)

    【背景・経緯】

    水環境における化学物質のリスク評価において、モニタリングの限界による暴露濃度の情報不足が課題となっており、暴露評価に数理モデルの活用が促進されています。産総研で公開している河川流域を対象とした水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)は、河川水だけでなく底泥の濃度も推定していますが、これまで河川水濃度については主に界面活性剤を対象として妥当性を検証してきたものの、底泥濃度については実測値が非常に少ないため、検証を行ってきませんでした。今後、底泥を含めた化学物質のリスク評価のニーズが高まることを見据え、本研究では河川水と底泥濃度の両方の推定精度を評価することにしました。

     

    【成果】

    解析対象水系は日本の都市河川で流域人口や下水処理場が多く、生活排水や産業排水の流入に伴う多様な化学物質の排出負荷が大きいと考えられる多摩川としました。対象物質は河川水と底泥の両方で検出された報告があるビスフェノールA(以下、BPA)としました。左図に示した多摩川の4地点で2017~2019年の夏季と冬季にBPA濃度を調査した結果とAIST-SHANEL Ver.3.0で推定した河川水と底泥の濃度を比較し、精度を評価しました。BPAの排出量としてPRTRデータのみを設定した河川水および底泥濃度の推定値は両者とも実測値より1桁以上低くなりました。調査日の流量の推定精度が概ね妥当であることを確認したうえで、PRTRデータ以外の排出量として下水道未普及地域からの排出量と廃棄物処分場からの排出量を推計して追加し、再計算した結果、河川水濃度の推定値は実測値の濃度レベルとほぼ一致しました(右図)。底泥濃度の推定値は全体的に過小評価の傾向が見られたものの、実測値の濃度レベルに近づき、調査地点の約1/3は実測値と同程度となりました。

    研究紹介_20211130_石川百合子(環境暴露モデリング)1 研究紹介_20211130_石川百合子(環境暴露モデリング)2

    図 多摩川におけるBPA濃度調査地点の位置(左図)とPRTRデータに下水道未普及地域と廃棄物処分場からの推計排出量を追加した場合の2017-2019年のBPA濃度の推定値と実測値の時系列変化(右図)

    出典:石川ら(2021)  Fig.1およびFig.7

     

    【成果の意義・今後の展開】

    本成果は数理モデルを用いた河川水および底泥の化学物質の暴露評価を促進させることを目的として、多摩川におけるBPA を対象としたAIST-SHANELの推定精度を評価したものです。今後、本モデルのさらなる積極的な活用のためには、より多くの河川流域や化学物質を対象とした推定精度評価を蓄積していくことにより、モデルの妥当性に関する検討を進め、必要に応じて改良していくことが重要と考えています。

     

    文献)

    石川百合子・小松原由美・江里口知己(2021):産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)の推定精度評価 -多摩川におけるビスフェノールA を対象として-,水環境学会誌,Vol.44, No.4, 95-102.

    田井梨絵・亭島博彦・石川百合子(2020):多摩川におけるビスフェノールA の分布状況と生態系に対するリスク評価.海洋理工学会誌 25(2),13-17.

    2021年11月30日