2020年度火薬類保安技術実験(野外実験)
松村知治(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
経済産業省は、通商産業省時代の1961年から各地の陸上自衛隊演習場を借用して、火薬類の大規模な爆発実験(火薬類保安技術実験、以下、野外実験)を実施しています。野外実験で得られた成果は、法令の改正や保安行政上の指導のための資料として活用されています。産総研は、この実験に第1回目(国立研究所時代)から継続して参加・協力し、実験計画の立案、実験データの計測・評価と報告書の執筆、技術基準案の検討、に携わっています。2019年度からは、煙火製造施設および煙火火薬庫の防爆壁にいくつかの構造を追加して爆風圧等の爆発影響低減効果を確認する実験を行い、新たな防爆壁の位置、構造および保安距離に関する技術基準案を検討しています。
【成果】
2020年度は、実規模の1/4.4スケールの模擬防爆壁試験体5種類(①爆薬から約1.8 m離してコの字型合板を設置、②同じく約2.9 m離して平板状合板を設置、③既存防爆壁の外側1面に接して積層金網を設置、④既存防爆壁の内側1面にウレタンを設置、⑤同じく3面にウレタンを設置)で実験しました。
実験①と②から、最適な合板設置位置は、爆薬からの換算距離0.6 m/kg1/3前後と分かりました。実験③では、積層金網設置方向の近傍(換算距離6 m/kg1/3以内)で爆風圧が低減した一方、重さ3.7 kg の金網破片が73 mまで飛びました。金網は重量飛散物になるので防爆壁の構造材には不適ですが、積層網目構造が爆風の減衰に有効であることを確認できました。実験④では、ウレタン設置方向の近傍(換算距離6 m/kg1/3以内)で爆風圧が低減し、実験⑤では、ウレタンを設置しない方向も含めた全ての方向で、換算距離9 m/kg1/3まで爆風圧が低減しました。
図 高速度カメラ撮影画像の一例
点火から5 ms(ミリ秒)経過後の状況(画像の横幅14.16 m)
【成果の意義・今後の展開】
2020年度は、5種類の模擬防爆壁試験体で実験を行い、有用なデータを取得できました。野外実験結果の詳細は、委託事業報告書1)として経済産業省のホームページに公開されています。
防爆壁に関する検討は、2021年度で終了の見込みです。数値解析の活用や実験室規模の実験でデータの補完を行い、より効果的に爆風圧を低減できる防爆壁の位置、構造に関する技術基準案の検討・とりまとめを行う予定です。
※ 本研究は、経済産業省、防衛省、公益社団法人全国火薬類保安協会、公益社団法人日本煙火協会、日本火薬工業会、その他関係機関・団体のご協力を得て実施しました。ここに付記し、感謝申し上げます。
1) 全国火薬類保安協会, 令和2年度火薬類爆発影響低減化技術基準検討報告書(2021).
2021年11月30日