海外渡航に係る新型コロナ感染症リスク低減のための効率的な検査体制 〜 複数回検査よりも、いつ行うかが大事
加茂 将史(リスク評価戦略グループ)
【背景・経緯】
新型コロナ感染症(COVID-19)に対する感染症対策は社会にとって喫緊の非常に重要な課題です。国境を越えた感染症の移動を防止するため、出国前の検査や、入国後の検査および隔離などの対策が取られています。検査を繰り返すほど、隔離期間を長くするほどリスクをより低くできることはほぼ自明です。けれども、検査にはコストがかかりますし、長期的隔離も大きな負担です。そこで、負担が少なくなおかつリスクは低く抑えられる対策が求められています。本研究では、感染者数の時間変化を記述する数理モデルを用いて、目的地にどの程度感染の持ち込みが起こるかを推定しました。このリスクが、検査回数や検査のタイミング、隔離の長さによりどのように変化するのかについて調べました。
【成果】
出国前の感染、移動中の感染、入国後の感染の3つのフェーズに分けて感染症動態を調べ、出国前検査の効果、入国後の検査および隔離の効果について検討しました。出国前の検査には、7日前および3日前、4日前および3日前の2回検査をする場合、4日、3日、2日、1日前に1回だけ検査をする場合それぞれで、目的地においてある個人が感染している確率を、検査をしない場合と併せて図に示します。検査を行う場合は、行わない場合に比べ感染確率は半分程度になります。検査を行う場合、感染確率が最も低かったのは、出国1日前の検査でした(図)。この結果は、検査を複数回行うことは大事ですが、それよりもいつ行うかがより重要で、検査は可能な限り出国直前まで待つのがよい、ということを示しています。同様の解析を、入国後の感染症動態に対して行うことで、現在取られている2週間の隔離は、検査をうまく組み合わせることで、1週間程度に短縮しても、感染確率は同程度に抑えられることを明らかにしました。
図 入国者1,000人当たりの感染者数(ある個体が感染している確率×1,000人)
出典:Kamo, M., Murakami, M., & Imoto, S. (2021). Effects of test timing and isolation length to reduce the risk of COVID-19 infection associated with airplane travel, as determined by infectious disease dynamics modeling. Microbial Risk Analysis, 100199.
https://doi.org/10.1016/j.mran.2021.100199
【成果の意義・今後の展開】
本研究において、検査のタイミングをうまく調節することで、効率よく感染リスクを下げられることことを明らかにしました。今回は、オリンピック選手のように、ゲームに参加するために入国し、ゲーム終了後直ちに帰国するという1度限りのイベントを想定しました。野球のペナントレースや演劇の定期公演では、同じ場所で講演を繰り返し行います。このような、定期的なイベントにも本解析手法を応用し、最適な検査頻度や適切な検査タイミングについて明らかにしていきたいと考えています。
※ 本研究は、井元清哉博士(東京大)、村上道夫博士(大阪大)との共同でなされました。
2022年02月09日