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  • 企業報告から読み解くSDGsと金属産業のつながり
  • 企業報告から読み解くSDGsと金属産業のつながり

    畑山 博樹(持続可能システム評価研究グループ)

    【背景・経緯】

    ESG投資の拡大によって環境、社会、ガバナンスへの配慮が企業にもとめられる中で、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた貢献を示すSDG報告の重要性が高まっています。特に金属産業ではESG課題が資源供給を阻害する要因となっており、課題解決に向けた取り組みを推進する必要があります。しかし、金属産業の企業の多くはSDG報告を実施できていません。金属のバリューチェーンとSDGsとの接点を整理することは、企業のSDGsに対する現状認識と実際の影響のギャップを示し、SDG報告の支援につながると期待できます。そこで、世界の主要金属メーカーの企業報告を分析し、金属産業がSDGsのどの目標に対する貢献を強く認識しているかを明らかにしました。

     

    【成果】

    主要金属メーカー約150社のうち、SDGsの個別の目標の達成に貢献する自社の活動を具体的に述べていたのは約半数でした。各目標に関係づけられた活動数を指標とした分析の結果、金属産業が強く関係を意識しているのは目標8(成長・雇用)、目標3(保健)、目標12(生産・消費)であり、一方で目標14(海洋資源)、目標2(飢餓)、目標1(貧困)とは弱い関係性にあることが示されました(図)。また、17目標との関係性は金属によって異なる傾向を示しました。例えば、鉄鋼は素材メーカーが原料の鉄鉱石を外部から調達するため目標12を強く意識しているのに対し、資源メジャーが鉱石採掘から製錬まで行う銅では採掘地域のローカルコミュニティに配慮して目標1、目標2の意識が比較的高くなっていると考えられます。この結果は、現状のSDG報告において直接的なステークホルダーの影響が大きく表れており、バリューチェーン全体を考慮しきれていない可能性を示唆しています。本成果は下記論文で公表されています。

    1. Hatayama (2022): Resour. Conserv. Recycl., 178, 106081.

    https://doi.org/10.1016/j.resconrec.2021.106081

    図 金属産業とSDGsの17目標の関係性(生産金属別)

    図 金属産業とSDGsの17目標の関係性(生産金属別)

     

    【成果の意義・今後の展開】

    本研究は、企業が影響を把握しやすい範囲が対象となりがちなSDG報告の現状を明らかにしました。製品が環境や社会に与える影響をバリューチェーンの各ライフステージで算定するライフサイクルアセスメント(LCA)の活用によって、インパクトが真に大きな影響領域の理解とSDG報告への反映を支援することが可能です。また、産業が強く意識しているSDGsへの貢献分野をLCAの影響領域として取り込むことによるLCA手法の発展も考えられます。

     

    ※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP14014)の結果得られたものです。

     

    2022年02月09日